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講演会

日本学術会議中部地区会議 学術講演会『三重の海の多様性から拡がる学術研究』

 12月9日(金)13時から、三重大学が開催校となり、日本学術会議中部地区会議主催の学術講演会をオンラインで開催しました。

 本学の日本学術会議連携会員・三重大学大学院医学系研究科 村田真理子教授による進行の下、冒頭開催校を代表した伊藤正明学長の挨拶では、伊勢湾と熊野灘に面する三重県の地域特性を踏まえつつ、今回のテーマを『三重の海の多様性から拡がる学術研究』とし、この地域と海域をフィールドとする2つの特徴的な研究活動を設定した背景などが紹介されました。

伊藤学長

 続いて主催者側として、日本学術会議副会長の髙村ゆかり氏と、日本学術会議中部地区会議代表幹事の池田素子氏から開会のご挨拶、日本学術会議中部地区科学者懇談会幹事長の松田正久氏からはご挨拶とともに科学者懇談会の活動状況報告がありました。

日本学術会議副会長の髙村ゆかり氏

日本学術会議中部地区会議代表幹事の池田素子氏

日本学術会議中部地区科学者懇談会幹事長の松田正久氏



 学術講演会では、まず人文学部 塚本 明 教授から「近代東アジアの海藻文化~志摩漁村から描くグローバルヒストリー~」と題して、以下のような講演が行われました。

近代東アジアの海藻文化~志摩漁村から描くグローバルヒストリー~

人文学部 塚本 明 教授

 日本は世界でも海藻食のパイオニア的存在であり、志摩地域はその中心に位置している。志摩では海女の潜水による伝統的な海藻漁があり、男女協働型の生業として発展してきた。志摩漁村の海藻漁では住民全体で作業を行う「出合い」という形態をとり、貴重な地域資源から得られる利益は「口銀制度」として、明治前期には学校運営の資金に充てられるなど、共有財化されてきた文化を持っている。
 グローバルな視点で歴史を紐解くと、19世紀に志摩の海女は伊豆半島など各地に出稼ぎに出かけ、出漁先は次第に全国化していく。テングサを加工した寒天が中国で需要が高まり国際商品化したことが背景にあり、その結果、テングサ漁は莫大な利益を生み出す生業へと成長し、いわば「テングサバブル」と言うべき時期を迎えていた。さらに海外(朝鮮半島等)にも出漁して利益を拡大するが、本来の海女漁のあり方を捨て、商人に雇用された侵略的な出稼ぎ漁は乱獲に繋がり、資源が枯渇して撤退した歴史も併せ持っている。
 いま三重県沿岸の海では、磯焼けによる藻場の存続が危機的な状況を迎えているが、今後もこの地域の資源である海藻の視点から、グローバルな流通構造の解明など学際的な研究を見据えていく。
 これらは講演の一部分ながら、塚本教授からは全般を通して、今後の研究活動に対する展望や期待として、海藻に関わる歴史の解明と新たな価値の創造などについて紹介されました。


 学術講演会の二人目として、生物資源学研究科 吉岡 基 教授から「鯨類の生態の謎を解き明かす~伊勢湾と熊野灘の多様なクジラとイルカの物語~」と題して、以下のような講演が行われました。

鯨類の生態の謎を解き明かす~伊勢湾と熊野灘の多様なクジラとイルカの物語~

生物資源学研究科 吉岡 基 教授

三重大学に赴任して以来、三重大の前に広がる伊勢湾と、その南に広がる熊野灘をフィールドとして、そこに生息する体長2メートルに満たないスナメリや、その10倍近い大きさのマッコウクジラの生態調査に取り組んできた。スナメリについては、日本で最もストランディング(死体の海岸への漂着等)が多く、かつ伊勢湾地域からの報告が非常に多いことから、それらのデータや標本を活用して生態解明を今も進めている。マッコウクジラについては、熊野灘のウォッチングフィールドを利用して、写真による個体識別調査に加え、現在のような優れた計測機器が無かった頃、データロガーを用いたマッコウクジラの潜水行動調査を行い、マッコウクジラがほぼ1日中、水深1000mもの深さまで潜水を繰り返していることを明らかにすることができた。スナメリとマッコウクジラ以外では、大学院生による伊勢湾口での100日を超えるフェリーでのハセイルカの目視調査も行い、このイルカが繁殖もして、今も伊勢湾口にすみついている。伊勢湾から熊野灘にいたる海には、世界に約90種いる鯨類のうち、その約1/4にあたる20種以上が生息・来遊している。
 これらは講演の一部分ながら、吉岡教授からは、愛くるしくもあり、雄大でもあり、近くもあり、遠くを回遊したり、深く潜ったりする鯨類の謎解きに向けて、ロマンあふれる多様な取組が紹介されました。


 この日の講演会には113名の方々にご参加をいただき、各講演の後には塚本教授と吉岡教授に対して、予定時間を超えるほどの活発な質疑応答が行われました。
 最後は進行役の村田教授から、大学の研究活動をわかりやすく社会に発信していくことも日本学術会議の重要な役割であり、本日の講演がそのひとつに位置付けられればとのコメントとともに、ご参加をいただいた方々への謝辞を述べて閉会となりました。

村田副学長、塚本教授