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野生イルカの体長を触らずに測り,保全につなげる

2022.9.30

研究の概要


 三重大学大学院生物資源学研究科の森阪匡通准教授(責任・筆頭著者)、大阪公立大学の濱裕光客員教授(大阪市立大学名誉教授)、近畿大学の酒井麻衣講師、および御蔵島観光協会の小木万布氏(三重大学の生物資源学研究科博士前期課程を修了)の研究グループは、イルカを撮影するだけで簡便に体長を推定する方法を確立し、伊豆諸島御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカの85頭の体長を計測することに成功しました。
 透明度の高い御蔵島周辺海域に棲息する野生のミナミハンドウイルカは、水中で間近で野生のイルカを観察できるため、観光資源としても、研究資源としても極めて重要です。ところが、2008年から2011年に個体群の約3割の個体がこの場所からいなくなる出来事があり、イルカたちの健康状態をきちんとモニタリングしなければならないと感じました。そこで体長を測定し、栄養状態の悪化などを調べられるような、「成長曲線」をこのイルカの個体群に対して作成することにしました。しかし自由に泳ぎ回る野生のイルカの体長を水中で測定するような、簡便な方法はありませんでした。
 そこで市販の3Dカメラを水中ハウジングに収めたシステムで、イルカを水中で撮影するだけで、簡便に体長を推定する方法を確立しました。これを用いて御蔵島の野生のミナミハンドウイルカを対象に、6年間で計85頭の体長を計測しました。この結果をもとに、何歳でどのくらいの体長になるのか、という「成長曲線」を描くことができました。成長曲線は、私たち人間でも、子どもの成長障害などを発見するのに用いられますが、野生のミナミハンドウイルカで描くことができたことで、例えばエサ不足による栄養状態の悪化などをいち早く発見できる可能性があります。個体群全体の健康状態のモニタリングに重要な役割を果たすと期待されます。

この研究成果は、ドイツの哺乳類の生態に関する国際誌(Mammalian Biology)の特集号に2022年9月22日付で掲載されました。
Body length and growth pattern of free-ranging Indo-Pacific bottlenose dolphins off Mikura Island estimated using an underwater 3D camera
https://doi.org/10.1007/s42991-022-00304-9

実際のイルカの撮影の様子

実際のイルカの撮影の様子.黄色の丸で囲んだものが体長推定のためのシステム.


詳しくはこちらをご覧ください。


研究者情報


   

森阪准教授

生物資源学研究科 附属鯨類研究センター 准教授
森阪 匡通(MORISAKA Tadamichi)
専門分野:生物音響学・動物行動学・鯨類学
現在の研究課題:鯨類における興味深い行動の記載・鯨類の保全に関わる要素技術の開発・鯨類のコミュニケーションや社会に関する基礎研究

濱客員教授

大阪公立大学 客員教授(大阪市立大学名誉教授)
濱 裕光(HAMA Hiromitsu)
専門分野:画像処理、コンピュータービジョン
現在の研究課題:画像処理技術を応用した哺乳類の様々な計測手法の開発、高齢者の自立生活支援システムの開発

酒井講師

近畿大学農学部水産学科 講師
酒井 麻衣(SAKAI Mai)
専門分野:動物行動学・海棲哺乳類学
現在の研究課題:海棲哺乳類のコミュニケーションや社会に関する研究・飼育下の海棲哺乳類のエンリッチメント

小木事務局長

御蔵島観光協会 事務局長
小木 万布(KOGI Kazunobu)
専門分野:保全生物学・鯨類学
現在の研究課題:御蔵島周辺海域の鯨類の保全研究、御蔵島の動物相の記載