研究の概要
ゼブラフィッシュに代表される小型魚類は、ヒトの病気を再現するモデル生物として広く使われています。ただし、その飼育に適した水温は28℃前後で、ヒトの体温である37℃とは大きく異なります。がん細胞の増殖や病原体の感染性など、多くの生命現象は温度に左右されるため、低い温度で行う実験ではヒトの体内で起きていることを十分に再現できない可能性がありました。
そこで私たちが着目したのが、ドクターフィッシュとして知られるガラ・ルファ(Garra rufa)です。中東の温泉域に生息するこの小型のコイ科魚類は高温に強く、ヒトの体温でも生きられる可能性がありました。しかし、実験動物として使うために欠かせない、全身の詳しい解剖学的・組織学的な情報がありませんでした。
本研究では、ウィーン大学との国際共同研究として、成魚の全身を組織切片・マイクロCT・MRIで網羅的に解析し、主要な臓器をカバーする組織解剖アトラス(組織地図)を作成しました。その結果、体のつくりは全体としてゼブラフィッシュと共通する一方、口の周りの吸盤、体長の約3.4倍にもなる長い腸管、黒く色素沈着した腹膜といった、この種ならではの特徴が見つかりました。
さらに37℃で飼育したところ、ガラ・ルファは高い生存率と正常な遊泳活動を維持したのに対し、ゼブラフィッシュは有意に死亡し、泳ぐ距離も減少しました。ヒトの体温で実験できる新しい魚類モデルとして、がん細胞の移植実験や感染症研究への応用が期待されます。

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研究者情報

ウィーン大学【上級研究員】
今 鉄男(KON Tetsuo)
専門分野:発生生物学、ゲノム進化学、比較ゲノミクス
現在の研究課題:
・ゲノム進化学を用いたヒトのゲノム機能と疾患感受性の分子機構の解明
・脊椎動物や刺胞動物のトランスポゾンを中心としたゲノム進化・集団ゲノム解析
・多様な動物種の新規ゲノム解読

三重大学医学系研究科
講師
島田 康人(SHIMADA Yasuhito)
専門分野:薬理学、分子生物学、モデル生物学
現在の研究課題:
・ゼブラフィッシュを用いた生活習慣病・がんモデルの開発と創薬研究
・ドクターフィッシュ(Garra rufa)のモデル生物化と、ヒト体温下での実験系の構築