研究の概要
医学部附属病院の石永一講師らが、血漿miR-21が頭頸部扁平上皮がんの新しい腫瘍マーカーとして、既存のものをこえる有効な腫瘍マーカーになり得ることを示しました。
1. はじめに
頭頸部扁平上皮がん(以後HNSCCと略す)は、およそ50~60%前後の生存率があるとされています。これは決して満足できる成績ではありません。もっと治療成績を改善するには早期発見・早期治療が重要であり、そのためには、早期発見のための精度の高い腫瘍マーカーが必要です。
しかし、現状においては、頭頸部扁平上皮癌(HNSCC)の腫瘍マーカーの精度が悪く、これまでの報告では感度が30~50%でした。
2. 新しい研究プロジェクトの立ち上げ
そこで、血漿miR-21に着目し、HNSCCの新規の腫瘍マーカーの可能性について探索すべく、2012年・7年前から三重大学医学部環境医学講座と共同研究を開始しました。
miR-21とは、21番目に同定されたマイクロRNAのことで、遺伝子発現を抑制する効果を持つ21~25塩基程度の一本鎖RNAのことです。miR-21は様々ながん(食道がん、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、膵がんなど)に関与しているとされており、様々な癌のスクリーニングに使える可能性があります。
3. 本研究での新しい発見と意義
1)これまで治療後どれくらいでマイクロRNAが低下してくるのか分からなかった。
・・・頭頸部扁平上皮癌における血漿miR-21の縦断的研究は世界初である。(他癌の領域でも、血漿マイクロRNAの縦断的研究は3編程度)
2)治療後の評価にはPETが最も優れているが、正確な診断には治療後3か月待たなくてはいけなかった
・・・今回の結果は、血漿miR-21はPETより早く治療評価判定できることを示唆している。
3)既存のSCC抗原との比較をした報告もなし
・・・血漿miR-21が明らかにSCC抗原より有用であることを示している。
4. 今後の展望
1)これまではまだ研究ベースの段階
・・・血漿miR-21を早期に実臨床レベルで使えるようにしたい。
2)さらに精度の高い腫瘍マーカーを目指して
・・・HNSCCの患者の血液を網羅的に探索し、複数個のmiRNAを同定し、さらに精度の高い腫瘍マーカーを目指したい。それらを用いた縦断的研究を行い、治療効果判定マーカーとしての意義もさらに検討したい。
本研究成果は、英国医学雑誌「Carcinogenesis(カルチノジェネシス)」に2019年4月11日に掲載されました。
DOI:10.1093/carcin/bgz075
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31063535
論文タイトル:A longitudinal study on circulating miR-21 as a therapeutic effect marker in head and neck squamous cell carcinoma.
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研究者情報
医学部附属病院
耳鼻咽喉・頭頸部外科
講師 石永 一(Ishinaga, Hajime)
専門分野:頭頸部腫瘍治療、嚥下障害の治療
現在の研究課題:頭頸部癌早期発見のための血清miRNAの測定