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塩性湿地に同所的に生息するオカミミガイ科3種は遺伝的集団構造が大きく異なっていた

2024.12. 2

研究の概要


 三重大学 研究基盤推進機構の井上香鈴助教(研究当時:東京大学大学院 理学系研究科 博士課程)は,東京大学大気海洋研究所の狩野泰則准教授,矢萩拓也助教,および三重大学大学院 生物資源学研究科の木村妙子教授と木村昭一研究員とともに,塩性湿地に同所的に生息するオカミミガイ科3種の遺伝的集団構造を比較し,集団間の連結性や地域個体群の絶滅リスクを評価しました。

 オカミミガイ科は塩性湿地に生息する代表的な巻貝のグループですが,日本を含めた東アジアでは複数の種において個体群単位の絶滅が危惧されています。一方,これらの保全対策を考える上で重要な生態・遺伝学的データは乏しく,日本国内の遺伝的集団構造に関する知見はオカミミガイに限られていました(Inoue et al. 2022; 三重大プレスリリース )。本研究では,オカミミガイと同所・同地的に生息し,近年個体群の減少が著しいナラビオカミミガイおよびキヌカツギハマシイノミについて同様の遺伝学的解析を行い,上記3種間で比較しました。その結果,3種の集団間の連結性は大きく異なっており,なかでもナラビオカミミガイは遺伝的な地域差が大きく,絶滅リスクが高いことが判明しました。特にナラビオカミミガイの分布の東限である伊勢・三河湾の集団は他の全集団と遺伝的に異なっており,個体群絶滅や種の分布域縮小を防ぐために保全上重要であることが示されました。さらに本研究の飼育観察で初めて明らかになったナラビオカミミガイの卵と浮遊幼生の形態・生態と,他2種の生態に関する先行研究のデータを比較し,繁殖戦略や生活史戦略の違いが遺伝的集団構造に影響を与えた可能性を示唆しました。

 また,形態・遺伝的な解析から,沖縄県に生息する「ナラビオカミミガイ沖縄型」(福田ほか 2012)は九州以北のナラビオカミミガイと異なる別種であることも明らかになりました。本研究で得られた知見は,オカミミガイ科貝類を含めた塩性湿地の絶滅危惧種の保全において,集団間の交流や生態学的特徴を考慮した対策の検討に役立つことが期待されます。

本研究成果は,2024年12月1日に国際学術誌「Zoological Science」に掲載されました。

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研究者情報


 

井上先生

研究基盤推進機構 助教
井上 香鈴(INOUE Karin)
専門分野:海洋生態学
現在の研究課題:
・オカミミガイ上科腹足類の陸上進出史の解明
・海岸ベントスの幼生生態の解明