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絶滅危惧種オカミミガイの遺伝的特徴を国内で初めて解明
伊勢湾の集団は、特に保全の重要性が高いことも明らかに

2022.3.17

研究の概要


 東京大学大気海洋研究所と三重大学生物資源学研究科の研究グループの共同研究により、干潟のヨシ原にすむ巻貝類の一種であり、近年減少が著しいオカミミガイの集団遺伝的な特徴を国内で初めて明らかにしました。
 オカミミガイは、世界では日本、中国、韓国を含む東アジアにのみ分布し、国内では東京湾から九州の分布が報告されてきました。大きさ3センチほどのアーモンドのような独特な形をした巻き貝です(図)。カタツムリの仲間ですが、陸ではなく、干潟の中のヨシ原湿地という極めて狭い範囲でしか生きていくことができません。そのため、堤防工事などの環境改変の影響を受けやすい種です。

日本各地のオカミミガイ

図:日本各地のオカミミガイ


 全国的に減少しているこの貝は、環境省の絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、環境保全の指標ともいえます。東京湾およびその近郊では20世紀半ばまでに絶滅したとされ、現在は、伊勢・三河湾が本種の分布東限となっています。伊勢・三河湾では、田中川干潟や松名瀬干潟、汐川干潟などの環境が保全された数少ないヨシ原湿地での生息が確認されています。

 本研究では、国内の地理的分布を網羅する7地域集団(津、岡山、山口、宇佐、伊万里、佐賀、出水)および韓国5集団(Yi et al. 2019)について、ミトコンドリア遺伝子塩基配列の比較を行いました。その結果、本種は国内の集団内では高い遺伝的多様性を示し、集団間の遺伝的交流の頻度も比較的高いことが明らかになりました。他方、韓国内での結果とは対照的に、日本の地域集団間には有意な遺伝的分化もみられ、特に現在の分布東限である中部地方の集団(津)は他集団との分化の程度が大きく、保全上の重要性が示されました。これは、生息環境が飛び地的に分布することと、浮遊幼生期間が比較的短いことに起因する可能性があります。
 干潟のヨシ原やマングローブ林に生息するオカミミガイの仲間は、生息地の悪化から多くが絶滅に瀕しています。今後、幼生期の長さや行動を含めた生態的知見を蓄積するとともに、他のオカミミガイ科絶滅危惧種についても集団構造を比較するなどにより、一層種の保全や生態系保全に貢献できると思われます。

 本研究は海洋生物学の国際学術誌『プランクトン・アンド・ベントス・リサーチ』の2022年2月号に掲載されました。

詳しくはこちらをご覧ください。


研究者情報


木村教授

生物資源学研究科 教授
木村 妙子(Taeko Kimura)
専門分野:海洋生態学
現在の研究課題:絶滅危惧種・外来種など人間活動の影響を受けている海洋生物の生態