- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

日本を圧倒する中国の力を感じた国際ミッション(その2)
~あっという間に出現する大規模な本渓市のバイオ・医薬パークに衝撃~

  瀋陽に来て2日目、いよいよ活動開始です。午前中はミッション団のうち10名が遼寧省人民政府を表敬訪問しました。副省長の趙国紅さんをはじめ、遼寧省の食品薬品監督管理局の幹部の方々に出迎えていただきました。副省長は三重県で言えば副知事にあたる役職ですね。食品薬品監督管理局は、三重県では、健康福祉部薬務食品室にあたります。

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  午後は、行政訪問グループ、大学訪問グループ、企業訪問グループの3つのグループに分かれて行動。私は、行政訪問グループの一員として、瀋陽市人民政府訪問および遼寧省食品薬品監督管理局との懇談に臨みました。

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  大学グループは瀋陽薬科大学を訪問し、三重大との大学間協定を締結することで合意し、企業グループは、大手製薬企業である東北製薬集団を訪問しました。このメーカーは現在ビタミンCを製造する世界で唯一の会社になっているとのことです。

 瀋陽市人民政府では副市長の王英さんたちの出迎えを受け、また、遼寧省食品薬品監督管理局の皆さんとは、医学食品行政について、忌憚のない意見交換がなされました。

 読者の皆さんはGMPという言葉をご存知ですかね。GMPとはGood Manufacturing Practiceの頭文字をとった略語で、薬事法で厚生労働大臣が定めた医薬品等の品質管理基準を指します。言いかえれば「患者さんが安心してその医薬品を使えるために、医薬品製造所が行うべきこと。」となります。

 中国でも、最近は先進国のレベルに合わせるためにGMPを厳しく管理するようになり、最近もこの地域の約300社の製薬企業のうちGMPを満たしていないということで、約100社を製造中止にさせたとのことでした。

 3日目の23日は、今回のミッションの本命である本渓バイオ・医薬パークの訪問です。開発区の庁舎では本渓市長の江瑞さんはじめ、開発区の幹部が迎えてくれました。まずは開発区全体の大きな模型にびっくりしました。

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  このバイオ・医薬パークは瀋陽市と本渓市の間にあり、瀋陽市から38km瀋陽桃仙国際空港から20km、本渓市から24kmのところにあって交通の便もよく、中国で4つめの医薬品産業に関わる国家プロジェクトとのことです。このプロジェクトは今年で2年目。1年余りの間に、敷地面積23.6平方㎞の農地を一気に医薬品等の企業に限った工業団地に変えようとしています。ここには、200以上の工場の誘致、複数の大学を移転させ、居住区もつくる計画で、すでに120社が入居し、うち20社は海外の企業とのことで、うち1社は日揮ファーマという日本企業です。

 各企業が研究機器を利用でき、また、大学の先生との共同研究をする研究開発センターも作られ、さまざまな支援や優遇措置が準備されています。日本語のパンフレットも、ちゃんと用意されていました。今回のミッションに参加した三重県の企業の方々も、かなり食指を動かされた感じを受けました。

 開発区の現場をバスで見学しましたが、新しい工場や大学の建設がどんどん進み、すでに稼働している工場もあります。一部に残る農民たちの家と新しい工場の極端な落差を感じる光景の中で、1年余りという短期間のうちに、広大な農地を大規模な工業団地、しかも医薬品工業に限って選択と集中をした新都市を造ってしまう中国のまねは、日本にはとうてい不可能だと感じました。

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S09110612.JPG  さて、見学のあとは本渓市の主催の昼食会。おいしい東北地方の料理をいただきましたが、前々回のその1のブログでご紹介したサプライズが、再度起こることになります。三重県薬事工業会会長の田山雅敏さんの誕生祝い。田山さんの誕生日の情報を本渓市にいったい誰が伝えたのか?その1を読まれたみなさんは想像できますよね。

  科学技術について、量だけではなく、質でも急速に先進諸国を猛追する中国。国立大学予算の削減と大学間格差拡大政策等によって、先進国の中で唯一科学技術論文数が頭打ちとなっている日本、特に医学論文数については減少しているという異常な現象のおこっている日本の将来は、いったいどうなるのでしょうか? 資源小国の日本が生き残るためには科学技術しかないと思われますが、このままでは、10年後に確実に中国に圧倒されていると感じました。

 民主党政権に替わりましたが、マニフェストに明確に記載されていない大学政策は不透明であり、はたして日本が科学技術で生き残る手はあるのでしょうか?