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スナメリも音でコミュニケーションをしていた! 世界初報告となる「パケット音」を含む2種類の鳴音の発見

2022.9.27

研究の概要


 三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程2年の寺田知功さんは、同研究科と鳥羽水族館(三重県鳥羽市)との産学連携に関する包括協定に基づき、同研究科の森阪匡通准教授および吉岡基教授の指導のもと、同水族館と共同研究を行い、飼育下のスナメリが鳴音で他個体とコミュニケーションを行っていることを確認しました。
 スナメリは中国から韓国、日本にかけて、人間活動の影響を受けやすい沿岸域に生息している小型のイルカです。そのため、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて絶滅危惧種(EN)に指定されており、その早急な保全活動のためには、彼らの生態を知り、人間活動の影響を正しく評価することが重要です。
 海の中で暮らすイルカにとって、音は重要なコミュニケーション手段の一つです。例えば、ハンドウイルカなどの比較的大きな群れを作る種では、音声コミュニケーションが活発に行われていることが知られています。一方、スナメリの音に関しては、エコーロケーション(発した音の反響音を聞くことで周囲の環境を把握する能力)に関する研究のみが行われており、コミュニケーションの機能に関しては全く分かっていませんでした。
 そこで、鳥羽水族館で飼育されている6頭のスナメリを対象に、彼らがコミュニケーションのための鳴音を持つのか調べました。1頭で隔離されたスナメリが発する音を調べたところ、スナメリは、「パケット音」と私たちが名付けたユニークな音を発しており、2頭以上でいるときには、この音をあまり発していないことがわかりました。一方、多くのイルカの仲間も発する「バーストパルス」というタイプの音は、1頭のときにはあまり発しておらず、オスメス両方が2頭以上でいて、繁殖行動を伴う仲良し行動をしているときに多く発していました。これらのことから、「パケット音」はお互いの関係を維持するための音である「コンタクトコール」の機能をもち、「バーストパルス」は親和的な繁殖に関わる何らかの機能を持つと考えました。つまり、スナメリはこれら2つの鳴音タイプをコミュニケーションに使っている可能性が高いと考えられました。こうしたコミュニケーションを音で行っていることがわかったことで、人工騒音(例えば船舶の音や海底掘削の騒音)が、スナメリのコミュニケーションに悪影響を及ぼす可能性があると推察されます。

本研究成果は日本の学術雑誌Journal of Ethologyに2022年8月8日にオンライン掲載されました。
Communication sounds produced by captive narrow-ridged finless porpoises (Neophocaena asiaeorientalis)
https://link.springer.com/article/10.1007/s10164-022-00755-0

アクリル窓に装着したマイクを見ているスナメリ

アクリル窓に装着したマイクを見ているスナメリ(鳥羽水族館)

詳しくはこちらをご覧ください。


研究者情報


   

寺田さん

物資源学研究科 博士後期課程2年
寺田 知功(TERADA Tomoyoshi)
専門分野:生物音響学・動物行動学
現在の研究課題:スナメリの音声コミュニケーションと他者認識

森阪准教授

生物資源学研究科 附属鯨類研究センター 准教授
森阪 匡通(MORISAKA Tadamichi)
専門分野:生物音響学・動物行動学・鯨類学
現在の研究課題:鯨類における興味深い行動の記載・鯨類の保全に関わる要素技術の開発・鯨類のコミュニケーションや社会に関する基礎研究


吉岡教授

生物資源学研究科 教授
吉岡 基(YOSHIOKA Motoi)
専門分野:海生哺乳動物学・繁殖生理学
現在の研究課題:鯨類の繁殖生理機構の解明・伊勢湾に生息するスナメリの生態解明