グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

イネ黄斑病のアウトブレイク発生を誘引する栽培技術を特定 サブサハラ・アフリカのサステナブルな食料生産を目指して、有効な手立てがなかったイネ黄斑病の防除に挑む!!

2022.3.10

研究の概要


【概要】
サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)では、都市化や食生活の変化によりコメ消費量が急激に増加しています。しかし、コメの生産性は低く、多くのサブサハラ・アフリカ諸国がコメ需要の増加を輸入量の増加でまかなっています。
この地域で生産性が高まらない主な理由は、水不足や機械化の遅れなどの問題に加えて、イネ黄斑病の異常発生(アウトブレイク)があげられます。三重大学の研究グループは、タンザニア連合共和国で発生したイネ黄斑病のアウトブレイクを調査し、病害クラスターの発生に強く関係する栽培技術の特定に成功しました。これまで、イネ黄斑病に対して有効な手立てがありませんでしたが、本研究で特定した栽培技術を改良することで、低コストかつ持続的に病害を防除し、アブサハラ・アフリカの稲作の生産性を高められる可能性がでてきました。
この研究成果は、2022年2月24日、持続可能な農業や食料供給に関する世界的な学術誌『Agronomy for Sustainable Development』にオンライン掲載されました。

【背景】
イネ黄斑病はRice yellow mottle virus(RYMV)というアフリカ地域に存在するウイルスによって引き起こされるイネの病害で、サブサハラ・アフリカの稲作に甚大な被害をもたらす重大病害の一つに数えられています。
従来、RYMVに感染したイネから近隣の健全なイネへの接触感染に関する個体レベルの知見や、RYMVの起源である東アフリカから西アフリカへの伝播に関する大陸レベルの知見が多く蓄積されてきました。ところが、個体と大陸の間をつなぐ地域レベルでアウトブレイクが発生するメカニズムについてはほとんどわかっておらず、いわばミッシングリンクとなっていました。
この研究は、地域レベルでの発生メカニズムを明らかにし、これまで手立てがなかったイネ黄斑病の防除法の確立を目指したものです。

【研究内容】
この研究では、三重大学が主導する研究グループ*1が、タンザニア連合共和国で発生したイネ黄斑病アウトブレイクを調査しました。
植物病理学(ウイルス検出)、作物学(栽培技術調査)、経済学(生産者調査、計量経済分析)の3分野を融合させて空間的自己相関モデル*2を構築し、病害クラスターの発生と強く関係する栽培技術の特定に成功しました。つまり、栽培時の手法や条件のいくつかが病害クラスターを誘引する要因となっていたことを明らかにしたものです。
また、農学分野では小規模な栽培実験でしか活用できなかった空間的自己相関モデルが、聞き取り調査などの簡易的な手法を駆使することで、広域的な調査にまで拡大できることも証明されました。

【今後の展望】
従来、イネ黄斑病に対しては有効な手立てがありませんでした。本研究を通じて、RYMVの病害クラスター発生に関わる個別の栽培技術が特定されたため、これら個別技術を改良することで、低コストかつ持続的にRYMVアウトブレイクを抑制できる可能性がでてきました。そうした栽培技術の改善は、サブサハラ・アフリカの稲作の生産性を高め、安定した食料生産に貢献することが期待されています。

【用語解説】
*1:三重大学大学院生物資源学研究科の関谷信人教授と中島亨准教授、国際協力機構(JICA)の大泉暢章技術協力専門家と冨高元徳技術協力専門員、東京農業大学の夏秋啓子教授、ソコイネ農業大学のNaswiru Tibanyendela講師、キリマンジャロ農業研修所のMchuno Alfred Peter氏が参画した国際共同研究グループ。
*2:イネ黄斑病発症の有無(被説明変数)を生産者が実践する各種栽培技術(説明変数)に対して回帰させる重回帰式の中に、空間的近接性(空間的自己相関≒距離の近い水田ほどイネ黄斑病を発症しやすい≒クラスターができやすい)を説明変数として考慮するモデル。

詳しくはこちらをご覧ください。


研究者情報


関谷教授

生物資源学研究科 教授
関谷 信人(Nobuhito Sekiya)
専門分野:作物学
現在の研究課題:持続的水稲栽培(有機稲作)技術の開発


中島准教授

生物資源学研究科 准教授
中島 亨(Toru Nakajima)
専門分野:農業経済学、計量経済学
現在の研究課題:強い農業に資する機械学習を用いた食品の消費者需要研究