概要
三重大学では2月4日に記者会見を開催し、医学部附属病院心臓血管外科の新保秀人教授、小沼武司講師より、「左心低形成症候群」および「左冠動脈肺動脈起始症」の2つの重篤な先天性心疾患を抱える乳児の手術に成功したことを発表しました。
今回の手術では、大学独自に開発した変法手術「肺動脈幹温存法」を行っています。この術式は、これまで「左心低形成症候群」の手術において課題であった合併症を回避し、かつ「左冠動脈肺動脈起始症」においても従来必要とされていた冠動脈移植手術を不要とする画期的な術法で、本疾患において冠動脈移植手術を行わずに患者さんを救命することができた世界初の症例となります。
ポイント
- 「左心低形成症候群」・・・ 心臓の左心室が小さく、心機能が弱くなる疾患。先天性心疾患の約1%を占め、厚生労働省から難病に指定されている。無治療では生後1か月でほとんどの患者さんが死亡する。治療には段階的な手術が必要であり、初回手術の成績は日本では74%の成功率(2014年168例中)と他の疾患と比べ良好とはいえない。
- 「左冠動脈肺動脈起始症」・・・ 通常、大動脈から起始する左冠動脈が肺動脈から起始する疾患。十分な酸素を供給することができず、生後1年以内に約90%が突然死するとされている。先天性心疾患の0.3%を占める稀な疾患であり、治療には左冠動脈の移植手術が必要となる。
- 小沼講師は調査・研究の末、「左心低形成症候群」における従来の術式である「ノーウッド手術」を発展させ、肺動脈の切除箇所をずらす変法手術「肺動脈幹温存法」を提案。これまで課題であった合併症を回避する術式を確立した。また、海外では「左心低形成症候群」の手術には人口膜もしくは凍結保存同種組織を用いてこれを回避しているが、現状では国内での入手は困難である。
- この術式は、今回のように「左冠動脈肺動脈起始症」を併発している場合においても有効であり、これまで治療に必要とされていた冠動脈移植手術を回避することでき、患者さんの負担を最小限に抑えることが可能となった。
- 「肺動脈幹温存法」は本件を含め、既に「左心低形成症候群」の患者さん5例に施行。いずれも成功し、その後の経過も良好である。
- 今回の2つの疾患をもつ患者さんの救命は国内初であり、この本術式の適応は世界初の症例となる。
- この成果は、独自術式の有効性だけでなく、疾患を術前診断で確認できたからこそであり、本院の医療チームの優れた総合力による結果である。
研究者情報
医学部附属病院 心臓血管外科
科長・教授 新保 秀人(Shimpo, Hideto)
専門分野:胸部外科、心臓血管外科、先天性心疾患の外科治療
現在の研究課題:体外循環の病態整理、開心術後急性期における肺循環動態、先天性心疾患における房室弁逆流に対する外科治療、体外循環中の中枢神経系の保護
医学部附属病院 心臓血管外科
講師 小沼 武司(Konuma, Takeshi)
専門分野:先天性心疾患、成人先天性心疾患
現在の研究課題:循環器領域における再生医療
【参考】
医学部附属病院 心臓血管外科 https://www.hosp.mie-u.ac.jp/section/shinryo/shinzokekkan/
医学系研究科 http://www.medic.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(新保秀人)http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1793.html
教員紹介ページ(小沼武司)http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2848.html