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再生ポリエステル衣料に対する消費者心理とは

2022.8. 3

研究の概要



 廃棄ペットボトル由来の再生ポリエステル衣料は新しいリサイクル技術に基づく環境対応製品であるが、当該製品は消費者の品質不安を招く可能性がある。
 一方、ブランドの高級感は、消費者の品質不安を抑制するとともにブランドの信頼性を高め、消費者のブランド態度や購買意図を向上させる。
 高級ブランドは稀少素材を贅沢に使用するイメージが強くサステナビリティとは相容れないといわれるが、本研究の結果に鑑みると、むしろ高級ブランドの方が環境対応を推進しやすいとみられる。


【背景と概要】
環境問題の深刻化とともに、社会的な環境意識が高まっており、あらゆる業界において経済活動における環境負荷低減の取組みが喫緊の課題となっています。この状況を受けて、服飾品業界では廃棄ペットボトルから作られた再生ポリエステル衣料の開発・販売が広がっています。しかし、当該製品はいわゆるゴミから作られたもので、生産には従来とは異なる新技術が用いられることから、消費者は品質を不安に感じなかなか購買に踏み切れないかもしれません。そこで、本研究では、消費者の品質不安やブランドに対する信頼、態度、購買意図に対して、再生ポリエステル製品の開発・販売が与える影響について調査・分析を行いました。高級ブランドは稀少な素材を贅沢に使用するイメージが強くサステナビリティとは相容れないとの指摘があることから、本研究ではブランドの高級感による影響についても分析しています。

【研究内容】
本研究では、国内で消費者調査(サンプル数=440)を実施し、実在する4つの有名服飾品ブランドが再生ポリエステル衣料を開発・販売したという仮定的設定の下で消費者の知覚について調査しました。データ解析の結果、再生ポリエステル衣料の開発・販売は消費者の品質リスク知覚を増大させブランド態度や購買意図を低下させることが確認されました。また、ブランドの高級感はブランドの信頼性を高めるとともに品質リスク知覚を低減し、ブランド態度や購買意図を向上させることが確認されました。この結果は、高級なブランドほど環境対応製品に関する消費者の不安を和らげ、その開発に取り組みやすいことを示しています。また、調査データから、再生ポリエステル衣料の開発・販売がブランドの信頼性向上に直接的には貢献しないことも示唆されました。この結果は、環境対応製品を開発・販売したからといって安易にブランドを信頼するほど、今日の消費者は短絡的ではないことを示しています。

【研究の発展性】
本研究は特定ブランドが特定の環境対応製品を開発・販売するという仮定的設定の下で論じられたものですが、実際の市場では様々な企業やブランドが環境負荷低減に多岐にわたって取り組んでいます。その取り組みを消費者が評価しなかったり、見せかけ(グリーンウォッシング)だと受け止めると、企業の売上は増えずコストばかりが増大して長続きしません。取り組みに対する消費者の評価を望ましいものとするには、企業やブランドの属性、環境負荷低減への取り組み、消費者の属性の3要素の適合性が重要になると考えられます。ブランド戦略研究ユニットでは、本研究の延長として、消費者心理に対するこれら3要素の影響の解明を進めています。

【用語解説】
ブランド態度:ブランドに対する評価であり好意(非好意)を伴う心理的傾向を示す。

【論文情報】
掲載誌:Journal of Global Fashion Marketing. ISSN 2093-2685 (Print) 2325-4483 (Online). Routledge/Taylor & Francis発行 (Web of Science採録).
DOI: 10.1080/20932685.2022.2085594
掲載日:2022年7月31日
論文タイトル:Effects of perceived luxury value and use of sustainable polyester on brand trust, perceived quality risk, and consumers & brand evaluation.
(備考) 本研究は三重大学人文学部ブランド戦略研究ユニットに関連するものです。

プレスリリース


研究者情報


熊谷教授

三重大学人文学部法律経済学科 教授
熊谷 健(Kumagai Ken)
専門分野:マーケティング論、ブランド論、消費者行動論
現在の研究課題:環境マーケティング、ラグジュアリーブランディング、国内産業のブランド戦略

長沢教授

早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
長沢 伸也(Nagasawa Shin'ya)
専門分野:デザイン&ブランド・イノベーション
現在の研究課題:ラグジュアリーブランディング