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近隣店舗が扱う高級ブランドのイメージはブランド評価にどのように影響するか?

2021.5.28

研究の概要


自分より優れた人と比べて自分を評価してしまうことはよくあることです。このような比較を「上方比較」といいます。ここで、上方比較対象となる人と自分の差異が小さい時、自己評価は比較しない時よりも向上し(同化効果)、その差異が大きい時、自己評価は比較しないときよりも低下することが知られています(対比効果)。
ところでアパレル企業は、高額家賃により収益性が低いと思われる場合でも、自社ブランドの店舗をラグジュアリー店舗が運営されるような高級立地に開発することがあります。こうした企業は近隣の店舗が取り扱うブランド(隣接ブランド)の高級感に基づく同化効果を利用してブランドの格上げを図っているとみられます。しかし、もし対比効果が生じてしまうと、こうした立地を得る為の高額投資は無駄になってしまいます。
かかる視点から、本研究は隣接ブランドに基づく立地の高級感がブランド評価にどのように影響するか考察するものです。2018年に首都圏で実施した消費者調査では、313人の参加者が実在する10 ブランドを用いて構成した5つの仮想的店舗立地に基づき評価対象ブランドの高級感について回答しました。
分析の結果、消費者が知覚するブランドの高級感は、当該ブランドと隣接ブランドと高級感の差異が小さい時に向上し(同化)、その差異が大きくなるとこの効果は消失することが確認されました。また調査データから、この同化効果は、消費者の計算的コミットメント*が高水準の時により強くなることが示唆されました。
本研究の最も重要な成果は、「ブランドビジネスを営むアパレル企業が格上ブランドを単にベンチマークするだけでは費用対効果が合わない」可能性を、店舗立地イメージという要素を用いて実証した点です。また、調査データは「他のブランド製品を購入して失敗したくない」等の理由から特定ブランドにこだわる消費者は、とりわけ自分自身の肯定的なブランド評価を裏付けるような立地イメージを受け入れ易いことを示しています。
本研究は高級感に注目していますが、その他のブランド要素についても同様に同化と対比の効果を引き起こす可能性があります。したがって、アパレル企業は店舗を開発する際、近隣店舗(ブランド)と自社ブランドの様々な要素の差異を多面的に管理する必要があるでしょう。
本研究はその学術的価値と実務的貢献が認められ、服飾品マーケティング分野で国際的に影響力があるJournal of Global Fashion Marketing(Taylor & Francis Group発行、Web of Science採録)に掲載されました。
(本研究は「人文学部ブランド戦略研究ユニット」の活動に関連するものです)
著者:熊谷健教授(三重大学人文学部)、長沢伸也教授(早稲田大学大学院経営管理研究科)
論文タイトル:Moderating effect of brand commitment on apparel brand prestige in upward comparisons
*計算的ブランドコミットメント:購買の失敗などのリスクを回避するために生じる特定ブランドに関する心理的繋がり

研究の概念図


研究者情報


Ken Kumagai

三重大学人文学部法律経済学科 教授

熊谷 健(Kumagai Ken)

専門分野:マーケティング論、ブランド論、消費者行動論

現在の研究課題:環境マーケティング、ラグジュアリーブランディング、国内産業のブランド戦略




Shinya Nagasawa

早稲田大学大学院経営管理研究科 教授

長沢 伸也(Nagasawa Shin'ya)

専門分野:デザイン&ブランド・イノベーション

現在の研究課題:ラグジュアリーブランディング