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北極域永久凍土の人類文化500年史の解明-文理融合による東シベリアの気候変動と社会文化の相互作用-

2017.8. 1

三重大学飯島慈裕准教授、ジョージメイソン大学S.クレイト教授、ライプツイッヒ大学M.ウーリッヒ博士、ハンブルグ大学J.O.ハーベック教授、ロシア科学アカデミーシベリア支部永久凍土研究所A.N.フヨードロフ博士、東北大学高倉浩樹教授、名古屋大学檜山哲哉教授らの国際共同研究チームは、東シベリア北極域に広がる永久凍土の人類文化500 年史を解明すると共に、現在の地球温暖化が過去にない速さで永久凍土生態系及び地域社会に影響を与えていることを明らかにしました。

『Anthropocene』18巻

URL:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213305416301060

(2017年7月掲載)※三重大学の外部ページです

永久凍土は人類の生存に否定的な影響をもたらすイメージがありますが、むしろ夏の融解期には生態系に水循環をもたらし、大気からの降水量が十分でなくても森林生育するなどの効果があります。本研究では約7000-4000年前(完新世気候最温暖期)に始まる凍土融解によって形成された森林のなかの窪地(サーモカルスト地形)が、北極域における人類の環境適応文化の形成に決定的影響を及ぼしたことを明らかにすると同時に、その自然環境条件が現在大きく変動していることを明らかにしました。

20世紀初頭までのシベリア先住民社会は狩猟採集・トナカイ飼育を基軸とする生業でしたが、このなかの中央アジア起源の先住民サハ人は13世紀以降に東シベリア・レナ川中流域に移動し、牛馬牧畜の導入に成功しました。この成功の理由として、彼らがサーモカルスト地形の草原生態系を積極的に利用したことにあることはこれまでも指摘されていましたが、サーモカルスト地形の起源や変化、そして住民の土地利用については不明でした。

今回本研究グループは、水文学・気象学などの自然科学と人類学を用いて、サーモカルスト地形の起源や変化、そして住民の土地利用について学際的にアプローチすることで、永久凍土の自然史と地域住民による土地改変を含む利用の長期的な相互作用を明らかにしました。これによって永久凍土の動態的条件が人類文化の多様性に貢献していることが確認されました。

ソ連時代は新たに森林伐採による農業開発が加わることで凍土融解の増加をもたらしましたが、深刻なものではありませんでした。また、社会主義体制崩壊後に、顕在化し始めた地球温暖化は、過去にない急速な凍土の融解を引き起こしており、そのことによって森林荒廃・土壌崩落が発生しており、このまま気候変動が続けば地域生態系が大きく変わる可能性があります。加えて、凍土に含まれるメタンの融解は全球レベルでの温暖化をすすめる要因となることも指摘されています。

北極域の温暖化は中低緯度地帯と比べて急速に進んでおり、その解明は全球の気候変動の解明と社会の適応にとって重要な課題となっています。東シベリアの永久凍土は、その分布の広大さゆえに、これまで十分な解明が行われてきませんでしたが、本研究はこの点において貢献するものです。また、気候変動が北極域の人間社会にどのような影響をもたらすのか、その適応策の構築も国際的に必要とされており、この点についても地域住民の認識を含む超学際的知見を提供するものとなっています。

本研究は、気候変動と地域社会の相互作用について、水文学・気象学と人類学を中心とする文理融合による全体論的アプローチが、人類文化史の解明と同時に現在の気候変動研究に貢献することを提示しました。

【参考図表】

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図1 調査地、ロシア連邦サハ共和国、レナ川中流域の特に右岸側にサーモカルスト地形が広がっている。(論文ではFig.1)

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図2 永久凍土の断面図。地下に氷楔とよばれる地下氷が存在していることがわかる。Aの氷の大きさは8mの幅が40mの深さ。Bは10mの幅が60mの深さをもつ。この地域の年間降水量は240mmほどでモンゴル・ウランバートルとほぼ同じである。この氷が地表の森林を支えている。(論文ではFig.3)

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表1 更新世後期から現在につづくレナ川中流域の永久凍土と人間社会の相互作用年表。6万年前に凍土の形成が始まり、7000−4000年前の完新世気候最温暖期に融解によるサーモカルスト地形(アラース)が始まった。考古学的遺跡では少なくとも5000年前から人類の居住の痕跡が認められ、11−13世紀にはツングース系言語集団(狩猟採集・トナカイ飼育)がこの地域に暮らしていた。13世紀以降、中央アジア起源のトルコ系サハ人がこの地域に移住し始め、牛馬牧畜適応を行った。17世紀にはロシア植民地となり、20世紀にはソ連経済政策のもとで農業用地が拡大した。この間気象変化は循環的でサーモカルスト地形は比較的安定していた。1991年にソ連が崩壊するが、その後、温暖化及び降水量増加が観測されており、それが永久凍土における一層の融解を進め、地域生態系を大きく変えつつある。地域生態系サービスに依存していた牛馬牧畜・農業生産に打撃を与えている。今後森林荒廃の可能性がある。

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三重大学生物資源学研究科 共生環境学専攻 フューチャー・アース学
准教授 飯島 慈裕(Yoshihiro Iijima)

専門分野:自然地理学、寒冷圏陸域の文理共同研究、大気ー陸面相互作用研究

現在の研究課題:東シベリア永久凍土荒廃とその自然・社会的影響 、降水衛星の寒冷圏での地上観測検証とその応用、モンゴルでの乾燥地災害学の体系化、中部山岳地域の温暖化と高山植物への影響



【参考】
教員紹介ページ(飯島 慈裕)http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/3082.html