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慢性疲労症候群の診断に有用な血中バイオマーカーを発見

2019.12.11

研究の概要


 三重大学大学院医学系研究科の江口暁子講師、関西福祉科学大学健康福祉学部の福田早苗教授(大阪市立大学客員教授・理化学研究所客員研究員)と倉恒弘彦教授(大阪市立大学客員教授・理化学研究所客員主管研究員)、理化学研究所生命機能科学研究センターの渡辺恭良チームリーダー(大阪市立大学名誉教授)、カリフォルニア大学サンディエゴ校のAriel E. Feldstein教授らの研究グループは、慢性疲労症候群の診断に使用できる可能性がある血中の細胞外小胞及びそのタンパク質(バイオマーカー)を発見し、その成果が2019年11月26日、Brain, Behavior and Immunityにオンライン掲載されました。

【背景】
 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS:Myalgic encephalomyelitis /Chronic Fatigue Syndrome)は、原因不明の強度の疲労・倦怠感により半年以上も健全な社会生活が過ごせなくなる病気です。通常の診断や従来の医学検査では、ME/CFSに特徴的な身体的異常を見つけることができず、治療法も確立していません。これまでに、ウイルスの活性化や自律神経の機能異常等を指標としたものなどが、ME/CFSのバイオマーカーとして提案されてきましたが、これらは他の病態でも見られるため、ME/CFSの診断が難しく、特定できないという問題がありました。そのため、よりME/CFSの病態メカニズムを反映し、客観的な診断を一般の医療施設でも可能にするバイオマーカーの確立が望まれていました。


【研究の手法と成果】
 本研究では、ME/CFS患者と健常者の血漿サンプルを採取し、フローサイトメトリーやプロテオミクス解析を行うことにより、ME/CFS患者は健常者と比較し、血中の細胞外小胞の数値が高いことを確認しました。
 また、血中の細胞外小胞の成分を解析した結果から、ME/CFS患者はtalinやfilaminを含むアクチンネットワークを構成するタンパク質(注4)の数値が、亜急性疲労(疲労症状を有するものの6ヶ月以上継続しない)患者や、うつ病患者と比較しても高いことを発見しました。
 以上の成果により、血中の細胞外小胞のタンパク質成分をバイオマーカーとして用いることにより、ME/CFSの客観的な診断が可能になり、これまで診断を区別することが難しかった亜急性疲労患者、うつ病患者との判別も可能になると考えられます。将来的には、アクチンネットワークのタンパク質が放出される機構を解明することで、慢性疲労症候群の疾患メカニズムに迫れる可能性があります。

【今後の展開】
 本研究で発見した細胞外小胞の成分を用いたME/CFS患者群と健常者群の判別が、異なる背景(人種など)をもつ集団にも適用しうるか、さらに検証します。また、慢性的な疲労の自覚はあってもME/CFSを発症していない人での解析も行い、詳細な疲労病態の解明に向けて、さらなる検証をしていく必要があります。将来的には、簡便に測定できる手法を開発し、一般の医療機関でも検査できるよう医療システムを構築していきたいと考えています。

【参考図】

プレスリリース「慢性疲労症候群バイオマーカー」

詳しくはこちらをご覧ください。

研究者情報


大学院医学系研究科 消化器内科 特任講師(実験担当)

江口 暁子 (Akiko Eguchi)

専門分野:細胞生物学、分子生物学、肝臓、遺伝子デリバリー

現在の研究課題:1.消化器病疾患におけるバイオマーカーの開発
        2.慢性肝疾患における病態進行メカニズムの解明