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高血圧・脂質異常症・メタボリックシンドローム・慢性腎臓病・高尿酸血症の原因となる14種類の遺伝子多型を発見

2017.7.25

【高血圧】ヒトゲノム上のエクソーム全領域に分布する約24万4千個の一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)を同時に解析できるエクソームアレイを用いて、14,678例(高血圧8215例、対照6463例)で収縮期血圧、拡張期血圧および高血圧についてエクソーム全領域関連解析を行い、血圧の調節および高血圧の発症に強く関連する新規の3種類のSNPsを発見しました。

最初に24万4千個のSNPsと収縮期血圧および拡張期血圧との関連を14,678例で解析し、収縮期血圧と有意に(P < 1.19 × 10-6)関連するSNPsを44種類、拡張期血圧と有意に(P < 1.19 × 10-6)関連するSNPsを8種類同定しました。次に高血圧8215例、対照6463例において24万4千個のSNPsと高血圧との関連を解析し、有意(P < 1.19 × 10-6)に関連するSNPsを100種類抽出した後、さらに多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別を補正して解析した結果、5種類のSNPsが高血圧と有意(P < 1.25 × 10-4)に関連しました。これらのSNPsを今まで報告された文献で調査した結果、3種類のSNPs―12番染色体q24.1領域のrs12229654(T/G)、ACAD10遺伝子のrs11066015(G/A)、BRAP 遺伝子のrs3782886(A/G)―が血圧の調節および高血圧の発症に関連することを世界で初めて発見しました。さらに、収縮期血圧に関連する新規のSNPsを38種類、拡張期血圧に関連するSNPsを2種類、高血圧に関連するSNPsを4種類発見しました。

【脂質異常症】14,337例(脂質異常症8354例、対照5983例)についてエクソーム全領域関連解析を行い、低HDLコレステロール血症に強く関連する2種類の新規のSNPsおよび高LDLコレステロール血症に強く関連する6種類の新規のSNPsを発見しました。

最初に24万4千個のSNPsと血清中性脂肪値(13,414例)、血清HDLコレステロール値(14,119例)、血清LDLコレステロール値(13,577例)との関連を解析し、中性脂肪と有意に(P < 1.21 × 10-6)関連するSNPsを46種類、HDLコレステロールと有意に関連するSNPsを104種類、LDLコレステロールと有意に関連するSNPsを40種類同定しました。次に高中性脂肪血症(疾患群4742例、対照群8672例)、低HDLコレステロール血症(疾患群2646例、対照群11,473例)、高LDLコレステロール血症(疾患群4489例、対照9088例)と24万4千個のSNPsとの関連を解析し、有意(P < 1.21 × 10-6)に関連するSNPsを抽出した後、さらに多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別を補正して解析した結果、2種類のSNPsが高中性脂肪血症と、3種類のSNPsが低HDLコレステロール血症と、9種類のSNPsが高LDLコレステロール血症と強く関連しました。これらのSNPsを過去に報告された文献で調査した結果、2種類のSNPs―USP4 遺伝子のrs146515657(T/C, Asn650Ser)、TRABD2B遺伝子のrs147317864(C/T, Ala262Thr)―が低HDLコレステロ-ル血症と、6種類のSNPs―6番染色体p21.3領域のrs2853969(C/T)、6番染色体p22.1領域 のrs7771335(A/G)、MOG遺伝子のrs2071653(C/T)、PPP1R18遺伝子のrs2269704(C/T)、NRM遺伝子のrs2269703(G/A)、MDC1遺伝子のrs2269702(A/G)―が高LDLコレステロール血症と関連することを世界で初めて発見しました。さらに、血清中性脂肪に関連する新規のSNPsを12種類、血清HDLコレステロールに関連する新規のSNPsを61種類、血清LDLコレステロールに関連する新規のSNPsを23種類、高LDLコレステロール血症に関連するSNPsを3種類発見しました。

【メタボリックシンドローム】6817例(メタボリックシンドローム3998例、対照2819例)においてエクソーム全領域関連解析を行い、メタボリックシンドロームの発症に強く関連する11番染色体q23.3領域のrs7350481(C/T)を発見しました。

最初に24万4千個のSNPsそれぞれについて、メタボリックシンドローム群と対照群におけるアリル頻度を比較した結果、40種類のSNPsがメタボリックシンドロームと有意に(P < 1.20 × 10-6)関連しました。次に40種類のSNPsとメタボリックシンドロームとの関連について、多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別を補正して解析した結果、11番染色体q23.3領域のrs7350481(C/T)がメタボリックシンドロームに有意に(P = 7.99 × 10-5、オッズ比1.23)関連しました。11番染色体q23.3領域のrs7350481(C/T)がメタボリックシンドロームの発症に関連することを発見したのは世界で初めてです。さらに、メタボリックシンドロームに関連する新規のSNPsを4種類、肥満に関連するSNPsを3種類発見しました。

【慢性腎臓病】推算糸球体濾過量、血清クレアチニン値および慢性腎臓病についてエクソーム全領域関連解析を行い、慢性腎臓病の発症に強く関連する新規のSNPを1種類発見しました。

最初に24万4千個のSNPsと推算糸球体濾過量(12,565例)および血清クレアチニン値(12,565例)との関連を解析し、推算糸球体濾過量と有意に(P < 1.21 × 10-6)関連するSNPsを25種類、血清クレアチニン値と有意に関連するSNPsを7種類同定しました。次に慢性腎臓病3270例、対照1891例において24万4千個のSNPsと慢性腎臓病との関連を解析し、有意(P < 1.21 × 10-6)に関連するSNPsを49種類抽出した後、さらに多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別、高血圧、糖尿病を補正して解析した結果、4種類のSNPsが慢性腎臓病と有意に(P < 0.05)関連しました。これらのSNPsを今まで報告された文献で調査した結果、C21orf59遺伝子のrs76974938 (C/T, Asp67Asn)が慢性腎臓病に関連することを世界で初めて発見しました。さらに、推算糸球体濾過量に関連する新規のSNPsを21種類、血清クレアチニン値に関連するSNPsを6種類、慢性腎臓病に関連するSNPsを3種類発見しました。

【高尿酸血症】血清尿酸値および高尿酸血症についてエクソーム全領域関連解析を行い、高尿酸血症の発症に強く関連する新規のSNPを1種類発見しました。

最初に24万4千個のSNPsと血清尿酸値(9934例)との関連を解析し、血清尿酸値と有意に(P < 1.21 × 10-6)関連するSNPsを6種類同定しました。次に高尿酸血症2045例、対照9641例において24万4千個のSNPsと高尿酸血症との関連を解析し、有意(P < 1.21 × 10-6)に関連するSNPsを35種類抽出した後、さらに多重ロジスティック回帰分析を用いて年齢、性別を補正して解析した結果、3種類のSNPsが高尿酸血症と有意に(P < 0.05)関連しました。これらのSNPsを今まで報告された文献で調査した結果、ATG2A遺伝子のrs188780113(G/A, Arg478Cys)が高尿酸血症に関連することを世界で初めて発見しました。さらに、高尿酸血症に関連する新規のSNPsを3種類発見しました。

この研究成果は、米国医学誌Oncotargetに4編の論文として掲載されました。

高血圧、脂質異常症・メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、高尿酸血症は患者数が非常に多く、予防がきわめて重要な生活習慣病です。

【高血圧】わが国の高血圧で治療している患者数は1,010万8千人(平成26年調査)で、通院治療を受けていない人を含めると高血圧の患者数は4,300万人と推定されており、生活習慣病の中でも最も患者数が多い疾患です。高血圧は年齢と共に増加するため、高齢化社会を迎えたわが国では、高血圧の患者数は年々増加傾向にあります。高血圧は脳梗塞、脳出血などの脳血管障害や心筋梗塞、心不全などの心疾患、慢性腎臓病や末期腎不全などの腎疾患を引き起こす重要な危険因子であるため、予防および早期治療が大切です。

一般に、高血圧の予防には減塩が有効です。1日1gの減塩で血圧が1 mmHg低下すると推定されています。また、肥満も高血圧を起こす要因であるため、体重を適正にすると、血圧も下がります。わが国の国民の平均血圧が4 mmHg下がると、脳血管障害による死亡を1万人、心筋梗塞による死亡を5千人減らすことができると推定されています。疫学的な研究により、高血圧の遺伝要因は30~60%であることが知られていますが、多くの遺伝子が関与しているため、まだ十分解明されていません。

医療3

【脂質異常症】脂質異常症(高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症)で治療しているわが国の患者数は206万2千人(平成26年調査)で、通院治療を受けていない人を含めると脂質異常症の患者数は3,200万人と推定されています。脂質異常症は動脈硬化の主要な原因であり、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの疾患を引き起こす重要な危険因子であるだけでなく、近年増加傾向にある大腸癌の危険因子でもあるため、予防および早期治療が大切です。血清LDL-コレステロールや血清中性脂肪(トリグリセライド)の増加あるいは血清HDL-コレステロールの低下は冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)のリスクを増加させることが明らかになっています。

疫学的な研究により、脂質異常症の発症には高脂肪・高カロリー食、運動不足などの環境要因・ライフスタイルに加え、遺伝因子が40~60%関与していることが明らかになっていますが、多くの遺伝子が関与しているため、まだ十分解明されていません。

【メタボリックシンドローム】メタボリックシンドロームは、腹部肥満、血清中性脂肪の増加、血清HDLコレステロールの減少、高血圧、高血糖を3つ以上有する病態と定義されています。わが国の40~74歳について厚生労働省が調べたところ、男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボリックシンドロームまたはその予備群であり、該当者数はメタボリックシンドロームが960万人、予備軍が980万人で合わせて1940万人と推定されています。メタボリックシンドロームは心血管疾患、糖尿病、癌の危険因子であるため、その予防が重要です。メタボリックシンドロームには高脂肪・高カロリー食、運動不足などの環境要因・ライフスタイルに加え、遺伝因子が30%関与していることが知られていますが、多くの遺伝子が関与しているため、まだ十分解明されていません。

【慢性腎臓病】慢性腎臓病は透析や腎移植を必要とする末期腎不全の原因であるだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管障害の重要な危険因子です。わが国の透析患者数は32万人で、過去30年間に8倍以上に増加しており、透析医療費は莫大な額になっています。さらに心血管障害による生活の質の低下や寝たきり、死亡を含めると、慢性腎臓病は大きな社会経済的損失を引き起こします。我が国の慢性腎臓病患者数は1,330万人と推定され、1)有病率がきわめて高いこと、2)透析患者数の増加や心血管合併症による死亡数の増加、医療費の増大など重大な社会的問題をもたらすこと、3)予防法や治療法が未だ確立されていないことから、慢性腎臓病の予防はきわめて重要です。慢性腎臓病の発症には遺伝因子が30%~50%関与していることが報告されていますが、多くの遺伝子が関与しているためまだ十分解明されていません。

【高尿酸血症】尿酸は肝臓で生成され腎臓で排出されますが、このバランスが崩れ血液中の尿酸が過剰になった状態を高尿酸血症と呼びます。高尿酸血症の患者数は800万人以上で、痛風患者の10倍と推定されています。高尿酸血症は、尿酸結晶が関節に沈着して炎症を生じる痛風の原因となるだけでなく、心血管疾患や癌の危険因子でもあります。高尿酸血症には、プリン体を多く含む食事、アルコール摂取などの環境要因・ライフスタイルに加え、遺伝因子が40%関与していることが明らかになっていますが、多くの遺伝子が関与しているため、まだ十分解明されていません。

 三重大学先端科学研究支援センターは、筑波大学、名古屋工業大学、東京都健康長寿医療センターおよび研究参加施設(岐阜県立多治見病院、岐阜県総合医療センター、名古屋第一赤十字病院、いなべ総合病院、弘前大学病院、弘前脳卒中リハビリテーションセンター)との共同研究により、高血圧・脂質異常症・メタボリックシンドローム・慢性腎臓病・高尿酸血症の発症に強く関連する14種類の遺伝子多型を世界で初めて発見しました。今回の発見により、これらの生活習慣病を発症する危険性の予測が可能となり、個人個人の遺伝情報に基づいた個別化予防に役立つことが期待できます。またこれらの遺伝子を標的とする新しい治療法の開発に応用できる可能性も生まれました。

研究成果の社会への還元:生活習慣病の予防に貢献

 高血圧は、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、大動脈瘤や閉塞性動脈硬化症などの血管疾患、慢性腎臓病や末期腎不全などの腎疾患の危険因子です。高血圧は罹患率が高く、我が国では通院治療を受けていない人を含めると高血圧の患者数は4,300万人と推定されています。今回の研究は、高血圧の遺伝的リスクを検出することにより、個人にとって最適な予防を可能にするものであり、その結果、心筋梗塞、脳卒中、腎不全などの重篤な疾患の予防に貢献することが期待できます。

脂質異常症(高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症)は動脈硬化の危険因子であり、特に高LDLコレステロール血症は動脈硬化の進展に強く関連するために「悪玉のコレステロール」と呼ばれています。したがって脂質異常症を予防することによって、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な動脈硬化性疾患を予防することができます。今回の研究は、脂質異常症の遺伝的リスクを検出することにより、個人にとって最適な予防法の実施に貢献できます。

メタボリックシンドロームは、単に軽度の異常値が集まった状態ではなく、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患、糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患および種々の癌の危険因子です。したがって、メタボリックシンドロームはまず予防が重要であり、予備群になった場合はその要因を早期に治療することが大切です。今回の研究は、メタボリックシンドロームの遺伝的リスクを検出することにより、個別化予防に貢献することが期待できます。

慢性腎臓病は透析や腎移植を必要とする末期腎不全の予備群であるだけでなく、死亡の大きな原因となる心筋梗塞や脳梗塞などの心血管障害の重要な危険因子です。したがって、慢性腎臓病はまず予防が重要であり、腎機能が低下した場合はその原因となる高血圧や糖尿病などを早期に治療することが大切です。今回の研究は、慢性腎臓病の遺伝的リスクを検出することにより、末期腎不全や心血管疾患の予防に貢献することが期待できます。

高尿酸血症は痛風の原因となるだけでなく、動脈硬化を促進するため心筋梗塞などの心血管疾患の危険因子です。したがって、高尿酸血症はまず予防が重要であり、血清尿酸値が高くなった場合は早期に治療することが大切です。今回の研究は、高尿酸血症の遺伝的リスクを検出することにより、個別化予防に貢献することが期待できます。

高齢化社会を迎えたわが国においては、中高年者の健康増進、生活の質の向上が重要な課題であり、個人個人の遺伝情報に基づいた生活習慣病の個別化予防(精密医療)の必要性は今後ますます高くなります。今回の研究成果を実用化することにより、中高年者の生活の質の向上や健康長寿に貢献できると考えています。

本日の発表は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)として遂行中の研究「自己情報コントロール機構を持つプライバシ保護データ収集・解析基盤の構築と個別化医療・ゲノム疫学への展開」の一部であります。本研究は16,000人の日本人集団におけるエクソン全領域関連解析から得られた「医学的ビッグデータによる科学的エビデンス」に基づいて「13種類の主な生活習慣病の発症リスクを同時に解析」するだけでなく、情報伝達を暗号化することにより「プライバシ保護個別化予防システム」を事業化することを目的としています。遺伝子検査は、唾液でも解析可能であるため、検査のため採血する必要もなく、検査を受ける方への負担は少なくてすみます。この研究成果を社会へ還元するため、安価・迅速・高精度でさらに通信を暗号化した検査法を開発し、普及していきたいと考えています。

【13種類の主な生活習慣病】

  1. 心筋梗塞
  2. 脳梗塞
  3. 脳出血
  4. クモ膜下出血
  5. 高血圧
  6. 2型糖尿病
  7. 脂質異常症(高中性脂肪血症・低HDLコレステロール血症・高LDLコレステロール血症)
  8. 慢性腎臓病
  9. 肥満
  10. メタボリックシンドローム
  11. 高尿酸血症
  12. 心房細動
  13. 大動脈瘤

共同研究機関及び研究者名

機関名

所在地

研究代表者

三重大学

三重県津市栗真町屋町1577

教授 山田 芳司

筑波大学

茨城県つくば市天王台1-1-1

教授 佐久間 淳

名古屋工業大学

愛知県名古屋市昭和区御器所町

教授 竹内 一郎

東京都健康長寿医療センター

東京都板橋区栄町35-2

部長 田中 雅嗣

20170327_yamada

三重大学 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター
教授 山田 芳司(Yoshiji Yamada)

専門分野ゲノム疫学・機能ゲノム科学
現在の研究課題2型糖尿病・メタボリックシンドローム・脂質異常症・肥満のゲノム疫学・機能ゲノム科学 循環器疾患(心筋梗塞、冠動脈疾患、高血圧、大動脈瘤、心房細動)のゲノム疫学・機能ゲノム科学 脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)のゲノム疫学・機能ゲノム科学 慢性腎臓病・痛風のゲノム疫学・機能ゲノム科学



【参考】
 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター http://www.lsrc.mie-u.ac.jp/
 教員紹介ページ(山田 芳司) http://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1375.html