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"COP-26" 朴特命副学長、国際環境教育研究センター長に聞く

今年10月31日から11月13日にかけて、英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に、世界保健機構(WHO)アジア・太平洋環境保健センター所長として出席された本学の朴 恵淑特命副学長(環境・SDGs担当)兼 三重大学国際環境教育研究センター長に、歴史的な観点から見たCOP26についてお話を伺いました。

伊藤学長(写真左)と朴特命副学長(写真右)

朴先生は、本学で四日市公害などを研究され、四日市公害から学ぶ「四日市学」を提唱しことがきっかけとなり、環境問題を研究テーマとして長く活動されてきました。特に、先生が米テキサス州のヒューストン大学におられた1988年に、現地で大干ばつによるトウモロコシの大凶作に関するニュースが流れたり、1989年のベルリンの壁崩壊、冷戦時代の崩壊の時に、当時の潜水艦の乗員が北極海氷の減少に気づいた話が紹介されるなど、1980年代後半に温暖化の影響と思われる現象がいくつも報告され始めるようになり、朴先生の問題意識が一層高まったそうです。

1992年6月、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロにおいて「地球サミット」として知られる環境と開発に関する国連環境開発会議(UNCED)が開催されました。ここで、地球温暖化問題に関する国際的枠組みを設定した国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択され、世界155ケ国が署名しました。当時の日本の宮澤喜一内閣総理大臣も、地球の緑、水、空気の保全、そして途上国の環境問題対処能力の向上に日本として貢献していくことを明言しました。
その3年後となる1995年、第1回目の締約国会議(COP1)がドイツ・ベルリンで開かれ、さらに1997年12月に京都で開催されたCOP3では、先進国及び市場経済移行国の温室効果ガス排出の削減目的を定めた「京都議定書」が採択され、地球温暖化防止に向けた国際取組が本格的に動き出しました。
温室効果ガスの排出削減をめぐっては、先進国と途上国の利害がぶつかり、なかなか具体的な内容まで決まらない状態が続きましたが、国連サミットにおいて持続可能な開発目標 (SDGs)が採択された2015年に、フランス・パリで開催されたCOP21において、初めて2020年以降の温室効果ガス排出削減等に向けた世界の全ての国における国際協定の「パリ協定」が採択されました。パリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度以下にすること、さらに1.5度に抑える努力をすること、気候変動による影響に対応するための適応策の強化、資金・技術などの支援を強化する仕組みを持つ包括的な国際協定でして、21世紀後半には世界全体の温室効果ガス排出量を実質的にゼロにする脱炭素社会を目指しています。朴先生は、これが各国の具体的なアクションを後押しする大きな契機の一つになったと見ています。

三重大学の環境・SDGs方針

COP26は、2020年に開催される予定でしたが、世界的な新型コロナウイルス感染拡大のため見送られ、今年の開催となりました。
朴先生は、このCOP26のホスト国であった英国が開催地にグラスゴーを選んだ背景を「パリ協定書を意識したことと、1765年にジェームズワットが蒸気機関を発明したのがグラスゴーだったことがあるのではないか」と解析されていました。「蒸気機関は産業革命をもたらし、それが後に地球温暖化の大きな要因になったといえる。今度は、緑の革命をグラスゴーから起こすという英国の意気込みがあるように感じた」と話されていました。

COP26では、開催を1日延長して14日間にわたる議論が行われ、「グラスゴー気候合意」の採択が得られました。朴先生にこの合意に関して感想を伺いましたところ、「各国の思惑があるものの、全体的には成功した国連の環境会議と評価できる。一番の成果は、世界の平均気温の上昇を1.5度以内に抑える努力を追求すると決意できたことで、パリ協定の内容を一歩踏み込んだものとなった。脱炭素(化石)社会を実現するためには、途上国でのCO2削減も重要で、これに対し先進国が技術的にも資金的にも支援するパートナーシップ行動基金も立ちあげられた。またこれらの活動をリードできる若者の育成を行っていくこと、グローバル・パーナーシップを決められた点は高く評価できる」とお話されていました。

今年は、津市内の紅葉はいつになく遅かったような気がします。みなさまの地域ではいかがでしたでしょうか。
また、大型台風の発生、ゲリラ的に降る集中豪雨など、気候変動が起こっていることを肌で感じることが多くなってきています。先日も、米国で季節外れの竜巻アウトブレークが起こっており、これも温暖化が一因と考えられます。このまま温暖化が進めば、10~20年で状況はさらに大変なことになってしまうと多くの科学的警告が出されています。
地球環境を持続可能なものとするには、脱炭素社会に向け、国のみならず、組織も、個人もそれぞれがどう対応していくかを考えて行かなくてはなりません。三重大学は、環境先進大学として、研究や人材育成、また大学運営の中で様々な取り組みを行っていますので、今後も皆さんと力を合わせ、環境問題、カーボンニュートラル・脱炭素社会実現への活動をより積極的に行っていきたいと思います。

朴先生は、冒頭でもご紹介した通り、本年10月からWHO西太平洋地域事務局のアジア・太平洋環境保健センターの初代所長に就かれております。このセンターは、当地域にある37カ国のWHOにおける環境問題を取り扱っており、ソウルに事務局があります。日中韓を含む西太平洋地域におけるWHOのセンター所長としても、朴先生の益々のご活躍が期待されます。

伊藤学長(写真左)と朴特命副学長(写真右)

朴特命副学長が描かれたイラスト