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人文学部「文化や社会について考察」

今回は、人文学部長の藤田伸也先生に、人文学部のことについてお話を伺いしました。

人文学部は三重大学唯一の文系学部です。三重大学にもある生物資源、医学、工学などの理系学部は自然の成り立ちを研究し、それを人類社会へ応用する教育研究活動を行いますが、文系学部は、人がこれまで長い年月をかけて築いてきた文化や社会について考察し、現在および今後の社会の在り方について考え、議論する学問領域です。
藤田先生は、「文科系の学部は、我が国において、国家有用の人材を育成するのに重要な使命を担ってきており、人間とは何か、世界はどこまで広がっているのかなど、人間中心で考えていく学問を行う場である」と言われていました。

大学の姿は、世界の歴史の中で、様々な国の異なる社会状況や風土に影響を受けながら、時代と共に変化してきていますが、近代型大学の原点とも言われる中世ヨーロッパのボローニャ大学やパリ大学では、やはり法学、神学などの文系分野が中心に据えられていました。
三重大学の人文学部は、1983年に当学5番目の学部として創設されました。これにより三重大学の総合大学化、すなわちUniversityとしての形が整いました。わが国における高等教育において、教育の原点とも言える、哲学、倫理学という領域の教育が重要です。次世代の社会を担う豊かな人間性と創造性を備えた人材の育成、国際相互理解の促進などに繫がる教育も教養教育が原点であり、この点においても人文学部が担う教育研究活動が非常に大切だということを、藤田先生との対話の中で改めて認識を強くしました。

三重大学人文学部は、「文化学科」と「法律経済学科」の2つの学科で構成されています。
文化学科では、世界諸地域のさまざまな文化を総合的視点で理解できる豊かな教養と人間性を身につけ、専門的知識と国際感覚に基づいて判断・行動できる人材の育成がなされています。特に、科学史、科学哲学(進化論、生命倫理)、美術史学、文化人類学、図書館情報学などの領域に強みがあるのが当学の特徴です。

法律経済学科では、法学・政治学・経済学・経営学という社会科学の4つの分野にわたる幅広い専門知識を提供しており、専門性と学際性を兼ね備えた教育を行うことで、国際社会・地域社会の発展に貢献できる人材の育成を目指しています。

三重大学は、地域拠点サテライト活動を通じて地域共創活動を展開していますが、人文学部は、伊賀サテライトの忍者研究、伊勢志摩サテライトの海女研究など、地域文化の歴史をテーマにした教育研究活動を牽引し、その様々な研究は全国的、世界的に知られ、三重大学のブランド形成にも貢献しています。

藤田先生によれば、「人文学部の対象は、社会の変遷、考え方の移り変わりを研究するところにあり、様々なことに疑問を持ち、どこに問題があるかを見つけて、議論することが重要」なのだそうです。そのためには、大人数の講義ではなく、少人数で身近に接して指導することが大切で、教えるというよりは、様々な事象を共有し、そこから学ぶ姿勢が必要とされます。だからこそ、三重大学の人文学部では、少人数教育による行き届いた学習を特徴とし、数名~10名程度のゼミ形式で教育が行われているとのことです。これは、国立大学の文系ならではの教育スタイルだそうで、学習の進展に、学生自身のモチベーションが非常に大切だけれども、逆に学ぶ意欲があれば、極めて充実した学習を続けられる環境です。
学部生の後半になると、多くの学生は就職活動に重きを置いてしまう傾向もある様ですが、藤田先生は、「せっかくの限られた学びの機会を無駄にすることなく、出来る限り学習を続けることが重要だ」と強調されていました。概ね、学びに対して高いモチベーションを持ち続けられる学生は、結果的には就職でもよい手ごたえを得られる場合が多いそうです。

藤田先生のご専門の美術史についてもお伺いしました。先生は、地形図への興味から東京大学理科2類に進学され、理学部地理学科を目指されましたが、入学後、理系より文系の面白みをより感じるようになり、3次元を平面で表す絵画への強い関心もあって、最終的に文学部の美術史学科を専攻することにされたそうです。
理系から文系に変更された藤田先生のお考えの柔軟さや関心の幅広さ、また、そうした専攻変更が可能な東京大学の素晴らしさに感動しました。先生は、奈良の大和文華館で学芸員を務められた後、本学人文学部の教員に転職されておられます。

先生は、現在、特に中国絵画のご研究を進められており、今回お話を伺った際にも、11世紀ごろに描かれた北宋絵画(水墨画)の郭煕『早春図』複製掛軸を見せてもらいながら、その奥深さについて教えていただきました。『早春図』は、山水画の頂点とも言われる作品だそうですが、墨の濃淡を活かし、スケールの大きい中にも非常に繊細な描写がされており、季節の移ろい、大自然、そこに生活する様々な人々の描述から、その当時の中国が理想とする人と空間を感じ取ることが出来ました。総合的な文化の現れである美術は、社会の余裕や豊かさが必要ですが、中国の歴史や壮大さをこの1枚からも理解することが出来ることを教えていただきました。

最後に、藤田先生から、本学の基本理念に出てくる「切磋琢磨する」という中国由来の言葉の意味を教えていただきました。「玉(ぎょく)の原石は外から見ただけでは分からない、その原石を切り出して、十分な手間をかけて、どう形を整え、磨き上げていくか」、これが切磋琢磨という言葉が示す意味だそうです。原石からどう輝く玉を磨くか、何を切磋琢磨するか、三重大学の今後の人材育成について、人文学的見地から、改めて重要な課題を確認することが出来ました。

高等教育におけるリベラルアーツの重要性、さらにリカレント教育の必要性が指摘され、文理融合、異分野横断的な教育から総合的人間力をもった人材の育成が必要となってきています。これらの三重大学の教育研究活動の発展において、人文学部の活躍が大いに期待されます。

伊藤学長藤田人文学部長

伊藤学長(左)と藤田人文学部長(右)伊藤学長(左)と藤田人文学部長(右)