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地域共創のハブ組織「地域イノベーション学研究科」

今回は、本学の地域イノベーション学研究科の小林一成研究科長にお話を伺いました。

小林研究科長


「イノベーション」という言葉は、今、様々な分野で使われています。モノ・仕組み・組織などに、従来にはなかった新しい考え方や技術を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的インパクトのある革新や刷新、変革をもたらすことを意味した言葉です。

小林先生は、イノベーションの代表事例として、「人々の移動を劇的に変化させた鉄道の発展」を挙げられました。蒸気機関の発明により機関車が作られ、場所を繋げるというコンセプトからインフラとなる線路が敷かれ、この2つが組み合わされて、それまでの移動手段にはなかった新しい価値が創生されたのが鉄道。まさに複数の要素の組み合わせが、単独で発揮する以上の価値、あるいはまったく新しい価値を生み出したイノベーションそのものであるということです。

そんな小林先生は、「三重大学の地域イノベーション学研究科が標榜するのは、大学の研究成果と知識を活用しながら、社会との連携によって地域を活性化させるための方法論を見出す学問。モノ・コト・ヒト・バショの新しい結合により、地域を明るく、暖かくすることを目標にしている」と言われていました。

小林研究科長


この地域イノベーション学研究科は、学部を持たない、博士前期(修士)および博士後期(博士)課程の大学院に特化した研究科です。創設は2009年4月と歴史はまだ12年、三重大学では一番新しい教育研究組織です。

本研究科が設立された背景には、少子高齢化や人口流出などを理由とした人口減により、県内の産業や伝統、住民主体となる地域活動が衰退していくことへの危惧がありました。社会や地域の活性化には、新たな産業をはじめとする価値創造が必要で、そのための人材の育成を行う組織として、地域イノベーション学研究科が生まれました。

スタート当初は「工学イノベーション」と「バイオイノベーション」の2つのユニットで、10名の理科系の専任教員により構成されていました。その後「社会イノベーション」ユニットが追加され、現在は、専任教員も19名となり、文理融合型の大学院の完成形に近づいています。2016年には現在の新しい研究棟も新築されました。
教育研究活動は、研究開発能力の専門教育を担当するR&D(Research and Development)教員と、プロジェクト・マネジメント(PM:Project Management)能力の専門教育を担当するPM教員が連携して進めており、これら両方を同時に学べる日本初の大学院として、我が国においても特徴的な存在となっています。

特に、PMを学べ、実践する力が養えるというのが、従来の高等教育と大きく異なる点でしょう。PMというのは、研究成果や知識を生かし、地域にある課題や問題の本質を捉え、実際にキャンパスの外で課題解決に取り組み、地域活性化に向けた取り組みを目指すものです。三重大学は、「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」「生きる力」を育成することを教育の指針に挙げていますが、まさに地域イノベーション学研究科が目指すのは、これらの力を本学が関係する地域において発揮し、発展させることと言ってもいいと思います。

地域イノベーション学研究科の大学院博士後期課程では、現在までにすでに31名が学び、そのうち3分の1が企業のトップマネージメント人材です。小林先生によれば、この中から、次世代エネルギー利用型の国内最大級植物工場、プロが唸るクラフトビール、世界から問い合わせの来る水質浄化装置、思いもよらない健康成分など、新しいビジネスモデルや製品の開発が実現されてきているとのこと。また、プロジェクト・マネジメントを実践できる研究開発系人材や、地域社会の課題解決に向けてゼロから価値を生み出すソーシャル・アントレプレナー人材が育ってきており、県内の新たな雇用機会にもつながってきているそうです。
小林先生が今後注目のテーマの一つと挙げられたのは、三重県南部です。この地域は、一次産業の規模は減少傾向にある一方で、人口減少により従事者の収入がV字回復する現象も見られ、今後一次産業そのものや六次産業化の新たなモデル展開が期待できると思われます。

伊藤学長(左)と小林研究科長(右)


小林先生は、「地域イノベーション学研究科は、今後、特徴的なPM教育をさらに広げて、大学院基礎教育の充実を図っていくことを目標としている」と話されています。

人生100年時代と言われる通り、健康寿命は延伸し、人々はより長く働き、生涯のうちに複数の会社や職業を経験することが当たり前の時代が到来します。こうした時代を生き抜くには、人生の様々な節目で、その後のキャリア形成に結びつく学びが必要です。本学は、そうしたニーズに応えるリカレント教育を提供、充実させていく役割があり、この点は、地域イノベーション学研究科独自の理念とも大いに一致するものです。リカレント教育に関する三重大学のプラットフォームとして、地域イノベーション学研究科の役割が期待されます。そして、本学で地域イノベーション学を学んだ人達が核となって、新しい時代の中で発展できる地域マインドを育み、地方に元気なコミュニティーを形成し、東京一極集中とは違う新しい日本の未来をつくってほしいと思います。

最後に、小林先生のご専門についてお話を伺いました。先生は、イネなどの食料や飼料となる植物の、耐病性やストレスに強い作物の育種に関するご研究をされています。遺伝子組換えやゲノム編集のように遺伝情報を操作する方法もありますが、先生は、遺伝子のメチル化やヒストン修飾といった、いわゆるエピジェネティクスという領域を応用しています。
遺伝子の塩基配列、遺伝情報を直接的に変更させることなく、遺伝子がもともと持つ機能に注目するため、食品に応用した場合にもより消費者に受け入れられやすい方法だそうです。また、エピジェネティックでは、遺伝子自体を変化させるわけではないので、発現した変化はその世代のみと考えがちですが、小林先生の研究成果では、数世代も優れた性質が続くことが明らかになってきているようです。社会への応用が期待される大変興味深いご研究と思いました。

伊藤学長


三重大学は、地域共創大学としての発展を今後の方向性としています。地域共創大学というのは、地域とともに発展し、地域の方々の幸せにつながる研究・教育・医療を実践する大学です。この視点からも、各学部の横断的教育研究組織として発展し、地域共創を繋げるハブ機能を強化し続けている、地域イノベーション研究科の活躍が今後益々期待されます。

小林研究科長(左)と伊藤学長(右)