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教育学部「国造りは教育から」

前回のブログから、本学の学部長や研究科長と対談した内容やその時感じたことについてお伝えしています。今回対談をお願いしたのは、教育学部長の伊藤信成先生です。

天文学のご専門家でもある伊藤先生との約束の日は、ちょうど24年ぶりの『スーパームーン×皆既月食』となる5月26日木曜日。教育学部の屋上で、月を待ちながらの対談という大変すばらしい設定をご準備いただきました。
(残念なことに、曇りで月を見ることができませんでしたが・・)。

伊藤信成先生が教育活動に使われている天体望遠鏡

伊藤信成先生が教育活動に使われている天体望遠鏡。
目で見える星の1万分の1の暗さの星まで観測できる。


教育学部は三重大学で最も歴史のある学部です。由来となった三重師範有造学校は1875年(明治8年)創立ですので、150年弱の歴史を有していることになります。本学の教育学部の歴史を紐解くと、近代化を目指して行われた新たな国造りの中で教育がとても重要視されていた明治初期の時代背景が見えてきます。
三重師範有造学校はそれから少しずつ形を変え、1949年(昭和24年)、三重大学の設立と同時に、本学の「学芸学部」となり、引き続き教員育成を担ってきました。当時、本学はまだ学芸学部と農学部のみで、私の実家の近くである現在の津市庁舎あたりに校舎があったことを覚えています。
こんな教育学部の150年は、まさに激動の日本と歩んだ歴史です。西洋文化の流入、世界大戦、そして敗戦からの復興、高度経済成長とバブル崩壊、最近では高齢化と人口減少、価値観の多様化など、時代のキーワードをあげればきりがありません。そんな時代、時代に生きる子どもたちや若者の教育に携わる人材育成を担ってきたのが教育学部です。今また大きな転換期を迎えようとしている社会が必要とする、教育分野のたくましいリーダーの育成に、三重大学教育学部はどのように取り組んでいくのでしょうか? 

教育学部案内など資料 


伊藤学部長の言葉の中でとても印象的だったのは、「昔の学校が力を入れたのは『知識』を教えること。今、そして今後大切なのは『どう考え、どう行動するかをしっかり決めることができる"生きる力"』を育てること」というものでした。このことは、大学教育を含め、現在の教育全般に通じることです。情報過多と言われる時代、情報を一方的に受け取るのではなく、自分で解析し、考え、様々な人とのコミュニケーションを図りながら、積極的に行動する力が大切となってきています。その力を育成するために、教育学部が今後に向けて重要と位置付けている4つの柱についてもお聞きできました。

伊藤学部長


一つ目は、デジタル化への対応で、現場では明治以来の大改革くらいの心構えだそうです。情報端末や通信環境の教育的活用を前提としたGIGAスクール構想への取り組みも附属学校園をはじめ各地で始まっています。

2つ目は、多様な児童・生徒への教育。特に、外国籍や特別な支援を要する児童・生徒などへの教育環境の整備が重要となってきているとのこと。三重県は外国籍の方の割合が高い県で、なんと津市では26の言語が使われ、外国籍児童の在籍率が日本一であることもお聞きしました。

3つ目に挙げられたのは、小規模校や複式学級に対応できる教育人材の育成です。今後ますます少子化が進むと、地方での学校規模が縮小され、教育ニーズも変化していくことが予想されます。そうした変化に対応するため、教育現場でもオンラインによる教育や生徒支援が必要となります。そこで、教育のDX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)化、つまりITを活用することでよりよい教育を実践できる教員の育成が重要となります。すでに本学の東紀州サテライトでは、その実践と研究が行われています。医師不足地域で各専門医の配置が難しい場合に、総合診療医が活躍する場面とよく似ていると感じました。また、少子化時代には、地域枠入試を活用して教員をめざす優秀な学生を獲得し、地域の豊かな教育を担う、地域に根差した教育人材を育成していくことも大学の大切な役割である点についても、伊藤学部長と意見交換ができました。

最後の柱は、教員研修の機能充実とのことです。研修を通じて教員として活躍されている先生方への支援、その教材開発などが、すでに教育学部、附属学校園で行われています。これらの活動は地域共創大学としての三重大学が担うべくリカレント教育の視点からも大切なポイントです。

これら4つの柱以外にも、第4期の目標に向けて、大学教職員数減少の中での教育環境の維持、教職大学院の充実、附属学校園改革なども取り組まなければならない重要な課題と話されていました。

おわりに、伊藤信成先生のご専門である宇宙についても、お話を聞かせていただくことができました。
宇宙を思い浮かべますと、あまりに壮大すぎて、私自身よくわかりません。私の専門分野である医学、中でも生物系の研究では、細胞や分子から考え、研究がミクロの方向に向かいますが、天文学は時間をも超えた壮大な領域の解明への挑戦です。この地球で、生命が生まれた経緯も想像すら難しいですが、私たちの存在も宇宙の動きの一部なのでしょう。先生のお話を聞きながら、宇宙のすさまじい力、自然の流れは、分子、個体、銀河、宇宙がやはり一つにつながっている証なのだと改めて感じました。

伊藤学長


今、社会は、明治維新以来の大きなターニングポイントを迎えていると言っても過言ではありません。22世紀につながる新しい日本の社会の基盤を支えるのは、やはり優れた人材です。新しい時代のよき国づくりを先導できる人材育成の基盤として、教育学部の活動は欠かせません。社会のニーズに対応しながら、新しい時代に向けた教育学部の活躍、発展を祈念したいと思います。

伊藤学長(左)と伊藤学部長(右)

教育学部のレリーフ『ミネルバの梟』の前にて