- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

果たして会社の社長に大学の学長が務まるか?
~三重県薬事工業会での講演にて~

 前回のブログの最後に「民主党政権に替わりましたが、マニフェストに明確に記載されていない大学政策は不透明であり、はたして日本が科学技術で生き残る手はあるのでしょうか?」と書いたのですが、事業仕訳で科学技術予算や大学予算が大幅に削減されることになり、私の心配していたことが現実になろうとしていますね。

 さて、気がついてみれば、あっと言う間にブログ更新の間隔が2週間以上もあいてしまいました。鈴大での毎週の講義にプラスして、もう一つ大きな仕事が入るとそうなってしまうようです。実は、ブログだけではなく、書類やメールも大量にたまってしまいます。先々週は三重県薬事工業会の研修会での講演、先週は日本糖尿病妊娠学会の特別講演があり、いずれも正真正銘の泥縄で間に合わせ、それが済んで、積み上がった手紙類や書類、何百という電子メールを処理して、やっとブログの執筆にたどりついたというわけです。

 私の場合は、講義の準備にすごく時間がかかるんです。今週も、準備に数日かけた上に夜中の3時まで準備をしていました。毎年同じ講義をしておれば、もっと楽なんですけどね。もちろん、講義以外の講演に対しても、最大限良いものにしようとこだわるので、講演直前のぎりぎりまで努力してしまいます。

 先々週(11月11日)の三重県薬事工業会の講演では、三重県内の製薬会社や化粧品会社などの幹部のみなさん30人を前にして、三重大学そして鈴鹿医療科学大学における、私の“経営”の取り組みについてスライド約116枚を使ってご紹介しました。経営のプロの皆さんを前にして“経営”の話をするとは、大それたことなのですが、皆さん真剣に聞いていただけます。

 いろんな大学経営のお話をさせていただいたのですが、その中で“会社の社長は大学の学長になれるか?”という問いかけを皆さんに投げかけましたので、今回はこれをご紹介しましょう。

 大学という組織は、トップの人事権や予算権というものがほとんどない組織なんですね。国立大学では2004年に法人化され、副学長の任命や多少の学長裁量経費が持てるようになりましたが、実質上はたいした権限ではなく、各学部長さんは学部の選挙で選ばれ、それを自動的に追認し、予算も各学部に自動的に配分される慣習なんです。私学の学長も、人事権や予算権は通常は理事長が握っていて、学長にはないケースが多いですね。つまり、学長には、“人事権や予算権がなくても組織をまとめられるリーダーシップ”が求められるわけです。

 では、どうすれば人事権や予算権がなくてもリーダーシップをとれることができるのでしょうか?

 これは、たいへん難しいテーマで、みなさんそれぞれ答えが違うと思います。たとえば学術的権威で組織をまとめるということも一つの方法ですね。ノーベル賞級の学者が学長になることもしばしばありますね。しかし、残念ながら私には学術的権威で人を動かすことはできません。

 そんな私が目指したリーダーシップは「EQリーダーシップ」でした。本屋に行けば、教科書が売られていますよ。“EQ”とはemotional quotientの頭文字をとったもので、IQ(知能指数)に対比される言葉で“感情指数”と訳されています。EQリーダーシップを一言で言えば、“周りの人々に共感・共鳴を与えることができる能力”ということになります。

 では、どうすれば周囲に共感・共鳴を与えることができるのか?たくさん心がけるべきことが教科書に書かれており、詳細は教科書をごらんいただくと良いと思います。

 私が心がけてきたことは、あたりまえのことばかりです。まず、“私利私欲のない純粋な熱意”です。私利私欲のある人には他人はついてきませんからね。それから、“外敵に対して身を賭して戦う”こともリーダーとしての不可欠の条件ですね。私の場合は平成19年の地方大学予算半減試案に対して、緊急記者会見などの一連の行動を起こしたことがあげられると思います。それから、“約束は必ず守る”、“自分の過ちに気がついたらすぐに謝る”、“筋の通った正論を述べる”など、どれも言い古された言葉ばかりですね。

 ただし、人間というのは、論理だけで相手を説き伏せても、反論できない悔しさが残るだけで、心の底から相手を尊敬してついていく気にはなれないものです。そこが、リーダーシップの難しいところですね。やはり、“人間的な温かみ”が必要です。しかし、“間違ったことや甘えに対しては毅然とした態度”が必要です。

 そういうことで、会社の社長は大学の学長になれるかという問いかけに対する私の答えは、「人事権や予算権に頼らずに組織を統率できる社長であれば大学の学長も務まる。」というものでした。

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