- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

授業の品質改善のためには?(その1)
~「プレテスト」で若者の"ケータイ力"に感心~

 前回は、授業の改善も国政の改善も同じであるということをお話しました。PDCA(計画―実行―評価―改善)のサイクルを回すためには、授業の改善であれ、国政の改善であれ、まず、目的・目標の達成を適切に反映する何らかの指標を測定することが大切ということでしたね。

 私の場合は、毎回の授業で、学生さんに授業評価をしていただき、点数をつけていただくと同時に自由な意見を書いていただいて、それをもとに授業の改善をしています。学生さんによる授業の評価は、一連の授業が終わった半年後ではなく、やはり、毎回の授業で行うべきですね。そうでないと、今授業を受けている学生さんに対して、改善の結果が生かされませんからね。

 学生さんからも「このようなアンケート等で授業についての感想や要望を伝える手段が授業ごとにあるので、とても良いと思います。分かりにくい授業をされる先生もいらっしゃるので、そのような先生こそ、このようなアンケートがあれば良いと思います。」というご意見をさっそくいただきました。

 さて、これから何回かにわたって、学生さんからの意見をもとにどのような授業改善をしたのか、そのノウハウを紹介していきましょう。5点満点で最初は3.6だった私の授業の点数が4.5にまで上がった秘訣の公開ですね。

 まず、私は「プレテスト」という手法を用いています。授業の初めに、その日の授業で説明をしようとするテーマに即した問題を出し、20分間で解答をしていただきます。できるだけ、学生さんが身近に感じるような場面を問題にするのがコツですね。この「プレテスト」というノウハウは三重大時代に解剖学の仙波教授といっしょに実行していた方法で、鈴鹿医療科学大では長浜教授(三重大の解剖学出身)も実践していますよ。

 この「プレテスト」の目的は学生さんに動機づけを行うことなので、正解を求めているわけではありません。そして、問題に答えるにあたっては、教科書を見てもいいし、友達と相談をしてもいいですよ、としています。

 さて、放射線技術科学科4年生の皆さんにプレテストを行ったところ、まだ教えてもいないのに、しっかりとした解答をする学生さんが多くて、さすがに4年生だな、と感じました。 

 教科書もまだ購入していない時期に、どうしてきちんと回答できているのか、不思議に思って教室内を見てみると、携帯電話(ケータイ)で一生懸命しらべて書いている学生さんがたくさんいました。 これが本当の試験の時ならば「カンニング」になるのですが・・・。

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“何を見ているの?”という問いかけに“ウィキ”という答えが返ってきました。“ウィキ”というのは、有名な“ウィキペディア”という、ウェブ上の百科事典のことでしたね。ウィキペディアの信頼性については議論がありますが、“信頼性に議論がある”ということを認識して利用するのであれば、たいへん便利なツールだと思っています。

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 このような「プレテスト」に対しては、学生さんから「最初のプレテストでわからないことを自分で調べたことで、その後の講義を理解して聴くことができて良かったです。」というコメントをいただきました。

 それにしても、若者の“ケータイ力”には感心しますね。これは、去る9月17日に、東京へ国立大学協会の会議のために出張して、一ツ橋の学術総合センターから出てきたところ、たまたま隣の如水会館(一橋大学の同窓会の会館)に人だかりがあり、報道陣が詰めかけ、空にはヘリコプターが飛んでいるので、ケータイを一生懸命見ている若い女性たちに「いったい何かあるの?」と聞いてみると「ノリピーが来るんです。」という言葉が返ってきました。ケータイでテレビの実況中継を見ていて、この日に保釈された酒井法子被告が乗った赤いワゴン車が、すぐ近くまで来ていてもうすぐ到着するという。

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 こういうケータイの使い方もあるのかと、感心したのですが(単に私が時代に遅れているということかも知れませんが)、若者の“ケータイ力”が優れているならば、これを逆手にとって、うまく授業に生かすことができれば、有効な教育方法になるだろうと思いました。