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三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

三重大生よ、開拓者(アントレプレナー)たれ!(その2)

 前回に引き続き、三重大卒でがんばっている若手の紹介の二人目です。きょうは理系の若手を紹介しましょう。

 さて、この写真はJournal of Cell Biology(JCB)という、世界的に有名な細胞生物学の学術誌の2008年12月号の表紙ですが、色彩豊かな点描で彩られた卵型の模様で飾られています。実は、この号で掲載された論文の写真の一部から、デザインにしたものなんです。表紙に書かれた「Parp-1 and the DNA Damage Delay」というタイトルは、この論文の略名で、この号に掲載された論文の中で、最も注目された論文であることがわかります。

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 この論文の筆頭著者は杉村和人さん。杉村さんは三重県鈴鹿市の出身で、2002年に三重大の生物資源学部を卒業。2004年には生物資源学研究科博士前期課程修了、2007年には同博士後期課程を修了され、現在、任期付きの助教の職にあります。

 色彩豊かな点描で彩られた卵型の模様の正体は、なかなか一言で説明するのは難しいのですが、PARP-1と呼ばれる、傷ついたDNAを修復するタンパク質などを、ノーベル賞をもらった下村脩さんの見つけた技術などを用いて、光らせていると言っておきましょう。色のついた点の集まりが卵型をしているのは、細胞の核の中にある物質を光らせているので、全体がちょうど核の形に光っているのですね。

  杉村さんは、PARP-1が、DNA(遺伝子)が複製する時に、その傷を見つけてDNA合成をいったん停止させ、DNAをもと通りに組み替えるたんぱく質(XRCC3)を呼び込む働きをすることを発見しました。

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 DNAが傷ついた場合に、それが修復されないと、細胞ががん化したり老化したりして、いろいろな重大な病気を引き起こします。また、がん細胞を抗がん剤でやっつける場合、DNAに傷をつけるのですが、傷が修復されるとなかなか細胞が死にません。こういう場合、DNAの傷を修復するPARP-1の働きを抑える薬を抗がん剤といっしょに投与すると、効率よくがん細胞を殺すことができるのです。

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 杉村さんは、この論文を高く評価され、さっそくこの学術誌のレビューアー(査読者)に指名されました。査読者とは、この雑誌に投稿してきた他の論文を審査する人のことですね。

 杉村さんを指導したのは、実は研究担当理事・副学長を2年間していただいた奥村克純教授です。奥村さんは、細胞のDNAを染める技術では、日本でも第一人者です。

09033001S.JPG  杉村さん、これからもがんばって、三重大生に勇気を与えてください。

 今回は、三重大卒の若手研究者として杉村さんを紹介しましたが、三重大卒で、三重大を含め大学の教授や准教授になり、世界的な研究成果をあげておられる先生方はたくさんいらっしゃいますよ。

 三重大生よ、開拓者(アントレプレナー)たれ!!