- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

「どんな小さな企業でも社会貢献はできる。」岡田卓也さんから三重大生へのすばらしい贈りもの
~三重大学名誉博士号称号授与式にて~

 前日の強風の吹き荒れた日から一転しておだやかな冬日となった2月2日(月)の午後4時から、イオン株式会社名誉会長相談役の岡田卓也さんの三重大学名誉博士号称号授与式が、講堂大ホールでおこなわれました。三重大では2004年の法人化をきっかけにして、名誉博士号の制度を設けたんですが、岡田さんがその第1号だったんです。

 岡田さんには、奥様の保子様といっしょに東京からお越しいただきました。そして、「小売業の繁栄は平和の象徴」という“私の履歴書”を記したご著書と、「いのちの木を植える」という詩人の谷川俊太郎さんとの対談を記したご著書、そして、谷川さんが岡田さんの80歳の誕生日にプレゼントした詩「木を植える」を刻んだ盾をプレゼントしていただきました。

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 式は、名誉博士称号授与、私の式辞、三重県副知事の江畑賢治さんの祝辞、祝電披露、岡田さんの記念講演「企業の社会的責任」、そして学生たちを交えての座談会と続きます。実は、この日は後期試験の前日ということで、学生には最悪の日取りだったのですが、熱心な学生たちが、翌日の試験にもかかわらず、大勢参加してくれたんです。(出席者は一般の方々も含めて700人くらい)

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 私の式辞は、岡田さんが、この地域の地場小売業を世界有数の大企業として育てあげると同時に、環境活動や地域文化の振興活動など、社会貢献活動に力を注がれ、わが国における企業の社会的責任(CSR)の模範を示されたことをお話しました。(式辞全文pdf

 記念講演は、岡田さんの人生の総決算ともいうべきもので、すべてをご紹介することはできません。ぜひ、ご著書をお読みください。たくさんの重要なキーワードがありましたが、ここでは、私の独断と偏見で一つだけ選んで紹介します。それは「どんな小さな企業でも社会貢献はできる。」という言葉です。

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 岡田さんは2歳の時にお父様、10歳の時にお母様を亡くされ、昭和21年に戦争が終わって焼土と化した四日市市で、お姉さまの千鶴子さんから引き継いで岡田屋呉服店の社長となってお店を再開されました。この時、岡田さんは若干21歳の大学生。これだけでも、すごいことですね。今でこそ、学生に起業家精神を育てることの大切さが強調されていますが、岡田さんは、はるか昔に学生社長を実践されていたんです。

 今では大企業に発展して、イオン環境財団やイオン1%クラブによる、国内外での植樹活動を通しての社会貢献活動はあまりにも有名ですし、また、岡田文化財団によるこの地域の文化の振興活動は他に例をみないもので、イオンは「企業の社会的責任」を果たしている模範的企業として評価されています。

 しかし、この日のお話で、岡田さんが社会貢献活動を始めたのは、会社が大きくなってからではなく、実は、岡田屋が走り始めの頃から、大通りの花壇を整備したり、生活の苦しい高校生に対して無償の奨学金を出したりして、最初からずっと続けてこられたことがわかりました。イオンの社会貢献活動は「どんな小さな企業でも社会貢献ができる。」という岡田さんの強い信念から出発しているもので、うわべだけのものではなく、筋金(すじがね)入りの社会貢献だったんですね。

 ご講演のあと、たいへんお疲れの中で三重大生との座談会に臨んでいただきました。朴恵淑学長補佐の司会で、学生たちが岡田さんをかこんで質問をしました。岡田さんはそれぞれの質問に対して83歳とは思えない明晰な頭脳で、丁寧にまた的確に回答されました。

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 小さい頃にイオンのお店で植樹活動をしたことが、大学生になった今の自分の環境活動につながっているという学生がいました。また、中国の清華大学からの留学生は、岡田さんの中国での植樹活動に感謝し、今後中国で環境問題がどうなると思われるか質問しました。岡田さんは、日本も四日市公害で木々が枯れるような時代を経験したが、中国で植樹活動をしたところ、多くの住民が参加し、中国の皆さんの環境への意識もずいぶんと高まっているので、必ず良くなるだろうとお話しされました。また、たこ焼き屋を始めたのだが、どうすれば成功するかということを質問した学生もいました。岡田さんは、桑名のお店が出している“おはぎ”を例にとって、素材が第一ですよとアドバイスされました。 今の日本の学生は元気がないと言われがちなのですが、大きな夢をいだいて挑戦することの大切さを、身をもって実践された経験からお示しになる岡田さんのお言葉に、学生たちは本当に感銘を受けたと思います。

 実は、最初の計画では、講演のあとで来賓の方々を交えての交流会を予定していたのですが、お正月に岡田さんにお会いした時に、“私は派手な会ではなく、学生たちに話をすることを楽しみにしているんです。”とおっしゃったので、急きょ交流会は中止して、学生との座談会に変更したのです。お疲れの中、予定時間を大幅に延長して学生からの質問にお答えいただいたこの座談会は、岡田さんからの三重大生へのほんとうにすばらしい贈り物になりました。

 その代わり来賓の方々には、お忙しい中、三重大までわざわざ足を運んでいただいたのに、何のお構いもできずに、そっけなくそのまま帰っていただきましたけどね。来賓の皆さんには、学生たちのためということで、非礼をお許しいただきたいと思います。