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三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

「アメーバ経営」の考え方を参考にしよう
~三重大・三重ティーエルオー「新春産学官連携講演・交流会」にて~

 みなさん「アメーバ経営」って聞いたことがあるでしょうか?経営者の方々にはよく知られた言葉で、採用しておられる企業もたくさんあると思います。でも、初めて聞く方には、「アメーバ経営」なんていったいどんな経営なんだろうと思われるかも知れませんね。

 1月22日(木)に「新春産学官連携講演・交流会」が講堂で開かれました。まず三重大工学部教授の平松和政さんが「LEDと光のイノベーション」と題して、日本人が大きく貢献したLEDのイノベーションがどのようになされたか、そして、発見や発明にはどういう環境が必要かについて話されました。次に、京セラミタ株式会社社長の駒口克己さんが、「京セラミタのものづくりと経営」と題して、どのようにプリンターや複合機で世界的シェアを獲得できたのか、そして京セラの「アメーバ経営」を中心にお話をされました。最後に副知事の江畑賢治さんが「三重県の産学官連携の取組」と題して、これまでの県の産学官連携の意欲的な取り組みについて話されました。新春にふさわしい、そうそうたる方々のお話に、会場はたくさんの産学官の関係者で埋まりました。

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 中でも、未曾有の経済危機の中で苦しんでいる企業の皆さんにとって、駒口さんの熱のこもったお話は勇気を与えるものでした。京セラミタの本社は大阪にあるのですが、三重県の玉城町にも工場があって、駒口さんは伊勢高校のご出身で三重県人ということも、聴衆に親近感をもって迎えられたと思います。

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 京セラと言えば、創業者の稲盛和夫さんはあまりにも有名ですね。鹿児島大工学部のご卒業で、1959年に27歳の若さで京都セラミック株式会社を創業され、日本有数の大企業に育てあげられました。現場での実践の中から確立された“京セラ会計”と“アメーバ経営”、そして、その根幹となる“京セラフィロソフィー”は、たいへん有名です。私も大学の経営にたずさわるようになって、稲盛さんのご著書「生き方」(2004年)と「アメーバ経営」(2006年)を読みました。

 また、稲盛さんは「稲盛財団」を設立され、ノーベル賞級の学者を表彰する「京都賞」の創設や、鹿児島大学に「稲盛経営技術アカデミー」設立、京都大学と九州大学に「稲盛財団記念館」を寄付しておられます。また、九州大学からは名誉博士号を授与されていますね。

 さて、「アメーバ経営」とは「小集団による部門別採算制度」とされ、会社の中の一つひとつの小集団(アメーバ)が、あたかも町工場や商店のように、自らが工夫をしながら経営を行う方式です。それぞれのアメーバは、毎月収益と費用(労務費を除く)を計算して、「労働時間あたりの採算(労務費を除く)」を計算します。そのために、社内における売買のルールや、間接部門の共通経費は案分するなど、実にうまく工夫がなされています。このような独自の管理会計の工夫により、それぞれのアメーバの実績が“見える化”され、明確な数値目標を目指して、一人ひとりの社員が主役となって意欲的に経営の工夫をすることになります。

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 ここで、注目されることは、利益を上げたアメーバは称賛されますが、その利益が個人の給与に直結する欧米型の成果主義ではなく、給与は長年の会社への貢献なども加味して各アメーバではなく全体で決められることです。つまり、日本人の伝統である集団としての活動が生かされる仕組みになっていますね。また、「労働時間当たりの採算(労務費を除く)」を、もっとも重要な指標(KPI: key performance indicator)にしていることも参考になります。利益そのものをアメーバのKPIにすると、過重労働になってしまう可能性もありますし、また、労務費の管理を各アメーバに任せると、各アメーバの判断で人件費を削減するということになりかねません。組織全体で決めることと、部分(アメーバ)が独自に決められることが、うまくすみ分けされていると感じますし、適切な数値目標(KPI)の設定の工夫が、いかに大切かがわかりますね。また、毎月コンパを開催するなど、社員間のコミュニケーションに最大限の配慮をしていることも参考になります。

 そして、駒口さんは、このような仕組みが機能するには、単に真似するだけではうまくいかず、その根幹となるフィロソフィーを徹底することの大切さを強調されました。京セラの経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」で、従業員を大切にすることを第一に掲げ、社会貢献がそれに続きます。ビジョンは「顧客との対話力の追及、ものづくり力の追及」です。そして有名な稲盛経営12カ条と、経営に必要な5つの行動規範を説明されました。「自利利他」は、単に自分の利益だけを追求してはいけないということですが、「小善は大悪に似たり 大善は非常に似たり」で、安易な利他も戒めています。「強い思いが大切」「もうダメだというときが仕事のはじまり」という言葉は勇気がわきますね。「人生・仕事の成果=考え方×熱意×能力」では、人は能力だけではなく「考え方」が大切であり、人事の時に能力だけで選ぶと失敗するということです。

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 そして、このような「フィロソフィー」と「アメーバ経営」が、京セラグループ180社に、単に言葉で掲げられるだけではなく「徹底」されていることは、さすがであると思いました。

 大学に民間企業の経営手法をそのまま適用することはできませんが、理念の徹底、数値目標(KPI)の設定の工夫、チームとしての活動の動機付けは参考になりますし、また、すでに管理会計システムを導入している附属病院については、すぐにでも応用できるのではないかと感じました。コンパを毎月やることもネ。

<参考>
○稲盛経営12カ条
1. 事業の目的、意識を明確にする。
2. 具体的な目標を立てる。
3. 強烈な願望を心に抱く。
4. 誰にも負けない努力をする。
5. 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える。
6. 値決めは経営。
7. 経営は強い意志で決まる。
8. 燃える闘魂
9. 勇気をもって事に当たる。
10. 常に創造的な仕事をする。
11. 思いやりの心で誠実に
12. 常に明るく前向きに夢と希望を抱いて素直な心で

○経営に必要な行動規範
① 自利利他
② 強い思いが大切
③ 小善は大悪に似たり 大善は非常に似たり
④ もうダメだというときが仕事のはじまり
⑤ 人生・仕事の成果=考え方×熱意×能力

 ご講演いただきました、三重大工学部教授の平松和政さん、京セラミタ株式会社代表取締役社長の駒口克己さん、三重県副知事の江畑賢治さんには心から御礼申し上げます。また、今回の講演・交流会のセットアップをしていただいた(株)三重ティーエルオー社長の円城寺英夫さんをはじめティーエルオーの職員の皆様に感謝をいたします。