- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

おめでとう! でも、たいへんですね、外科系医師不足
~耳鼻咽喉科学教授就任祝賀会にて~

1月12日(日)は、三重大学医学部耳鼻咽喉科学の竹内万彦(かずひこ)教授就任記念講演会と祝賀会に出席。まず、「気道上皮細胞をめぐって」というテーマで、竹内さんが今まで取り組んでこられたすばらしい研究をご紹介いただきました。地方大学で忙しい臨床や教育に追われる中で、世界的なジャーナルに英語の論文をたくさん公表しておられることは、たいへん素晴らしいことです。竹内さんの教室運営の方針は、まず「楽しく明るい教室に」次には「教室員ひとりひとりを個性あるスペシャリストに育てる」ということです。竹内さんはいつも明るく、親しみのもてる先生で、子供たちのサッカーチームの世話もしておられ、きっと、若い医師や学生たちにも慕われて、すばらしい教室を創っていただけるものと思います。

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ところが・・・・。

講演会のあとに開かれた祝賀会での席には、他府県の耳鼻咽喉科の教授の先生や、三重大のいろい ろな診療科の教授の先生も参加されたのですが、竹内先生に対して「おめでとう。」の次には必ず「でもたいへんですね。」という言葉が、異口同音に発せられました。

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どうしてなのでしょうか?

平成16年に新医師研修制度が実施されてから、診療科による医師の偏在がひどくなっています。小児科や産婦人科は早くから医師不足が言われていましたが、今では多くの外科系の診療科、麻酔科や一部の内科においても、若手医師がかなり減っています。耳鼻咽喉科も若手医師が減った科の一つです。一方、形成外科(美容外科を含む)などは増えているようです。

では、どうして診療科による医師の偏在が起こったのでしょうか?

その理由の一つとしては、以前よりも学生や研修医がしっかりと臨床実習や臨床研修で各診療科の現場を体験することにより、しんどさ、待遇、リスク、自分に合うか合わないか、医師の需給などを十分に考慮した上で、選択することがあげられています。経済学の教科書をひも解くと、市場原理がうまく機能しない場合として「情報の非対称性」ということが書かれているのですが、この「情報の非対称性」が、以前よりも小さくなったと想像されます。ネットによる学生や若手医師間の情報交換の容易性も、情報の非対称性の解消にプラスに働いていると思われます。

そして、自由選択では必ず勝ち組と負け組を生じるので、診療科間の偏在あるいは格差が生じることになります。この医師の偏在が、顧客(患者)の需要に応じた市場原理による調整であれば住民に与える影響は小さいのですが、需要との間に乖離(かいり)がおこると社会問題として顕在化することになります。もし仮に、外科系診療科の"しんどい"ことが若手医師の少なくなった最大の理由ならば、いったん減りだすとますますしんどくなってさらに希望者が減るという悪循環に陥ります。 "しんどい"診療科の待遇改善が急がれます。

この際、皮肉なことに、残された医師が黙ってがんばればがんばるほど待遇改善はなされず、ある限界を超えるとバブル経済のように突然崩壊する可能性もあります。現場からもっと声をあげるべきだと思います。

医師の偏在には、診療科間の偏在ばかりではなく、地方と都会間、病院勤務医と開業医間の偏在もあるといわれていますが、これらの偏在が顕在化しやすいもう一つの重要なファクターは、医師の絶対数が不足していることと考えられます。平成18年に出された厚労省の「医師の需給に関する検討会」の推計では、将来医師が過剰になるという結論ですが、1月12日の朝日新聞によると、日本政策投資銀行の試算では2025年には多くの地域で医師不足になるという全く逆の結論になっています。いったいこれはどういうことなのでしょうかね?

三重大医学部では、地域医療への貢献を第一に考えて、教員や大学の負担が大きく増えるにも関わらず、今年の4月から医学部の定員を、最大限がんばって、2年前の100人から120人に増やしました。また、地域枠が25人、推薦入試枠が10人で、実質35人は地域医療への貢献をしていただくということで募集していますが、一般選抜においても、一人でも多くの地域医療に貢献したいという学生さんの入学を期待しています。三重大に対する地域からのご支援をどうぞよろしくお願いします。