- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

日本企業の海外の大学への研究投資を目の当たりにして
~カリフォルニア訪問報告、その2~

 8月29日ブログで、カリフォルニア訪問の報告をしましたが、今日はその追加版です。

  今回の訪問団が、三重大工学部教授の平井淳之(じゅんじ)さんと、技術移転を受けている地元企業の「三重電子」の研究担当の出口篤さん、そして三重県の方々からなることは前回のブログでも書きましたね。平井さんは「無接触情報・電力伝送技術」を開発されました。簡単に言えば、電線がなくても情報と電力を送れる技術です。たとえば、ロボットの手足を動かそうとする時に、そのつなぎ目の関節にあたる部分の接触が必要かどうか、あるいは電線が必要かどうかで、ずいぶんとロボットの機能や耐久性が左右されると考えられます。今後のメカトロ・ロボットの分野では、なくてはならない要素技術になることでしょう。 cal25.jpg

cal27.jpg  ここで、ロボットという言葉は皆さんもよくご存じだと思いますが、「メカトロ」という言葉をご存じない読者もおられるかもしれないので、少しだけ説明をしておきましょう。「メカトロ」は「メカトロニクス(Mechatronics)」の略で、昭和44年(1969年)に安川電機の技術者であった森徹郎さんによって発表された、機械工学(Mechanics)と電子工学(Electronics)を合わせた和製英語です。その後、この言葉は広く使われるようになり、近年は外国でも通じるようになったとされています。ロボットを研究するロボティクス(Robotics)よりも、より広く、基礎的意味を含んでいると思います。

cal24.jpg  さて、訪問団の最初の仕事は、カリフォルニア州のオレンジ郡アーバイン市にあるカリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)で開催されるメディカルオートメーションについての研究会で発表することでした。オレンジ郡はロサンジェルス市の南に位置しており、ディズニーランドで有名なアナハイム市もあります。

 研究会では、平井さんが、彼の「無接触情報・電力伝送技術」や三重メカトロ・ロボット研究センター構想を発表し、私が三重大の産官学連携の実績やプランを紹介し、当地で合流した三重県知事の野呂さんが、三重県の産業政策などについて発表しました。 cal23.jpg

 その後、研究担当副学長のアースマンさんに、キャンパス内を案内していただきました。UCIrvineは、1965年にこの土地の大部分の所有者であったアーバインカンパニーにより贈与された土地に設立された比較的若い総合大学です。学生数は2万7千人、教員数は2000人、職員数は8900人です。07年度のU.S.News誌のランキングでは44位に位置づけられています。広大なキャンパスの真ん中にはアルドリッチ緑地公園があって、その周りに建物が並んでいます。公園にはユーカリの木がたくさん植わっていました。なぜ、カリフォルニアにはユーカリがたくさん生えているのか、説明をしていただきました。 cal22.jpg

 それは、開拓時代に鉄道会社が線路の枕木(まくらぎ)にするために、オーストラリアからユーカリを移植したからだそうです。しかし、結局枕木には使われなかったとのことです。

 いくつかの産学連携の研究室を見学させていただいたのですが、燃料電池研究センターでは、トヨタ自動車が共同研究をしていました。また、キャンパス内にはトヨタ自動車が寄付をした電気自動車が走っていました。医学部には日立が寄付をしたHitachi Chemical Research Centerがあり、また、オリンパス光学とも共同研究をしているとのことでした。

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 日本企業の大学への研究投資額は、実は、日本の大学へよりも海外の大学への方がはるかに多く、最近それがさらに増える傾向にあります。UC Irvine で、それが現実であることを目(ま)の当たりに見せつけられると、なんともやるせない気持ちになりました。交付金が削減されて苦労している国立大学に、トヨタや日立がお金を出してくれれば、もっとすばらしい研究ができるのに・・・・。

  グローバル化社会においては、日本企業は日本の大学のことを思って研究費を投入するのではなく、彼らの国際競争の生き残りのためには、日本の研究であろうが海外の研究であろうが、また、日本人であろうが外国人であろうが、関係はないとうことなのでしょう。また、大学の方も、国際競争の生き残りのためには、自国の企業でも海外の企業でも関係がないし、また、優秀な人材であれば自国人でも外国人でも構わないということなのでしょう。UC Irvineでも、韓国や中国などからの学生が多くを占めているとのことでした。