- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

質の高い教育・研究と地域との連携によって大学は生き残る
~鈴鹿医療科学大学薬学部開設記念祝賀会にて~

suzuka1.jpg    7月6日に、鈴鹿医療科学大学の薬学部開設記念祝賀会が鈴鹿市で開かれました。鈴鹿医療科学大学は、日本で最初に開設された医療系専門の大学であり、保健衛生学部、医用工学部、鍼灸学部に今回薬学部が加わり、4学部8学科の大学となりました。三重大には医学部(医学科、看護学科)がありますが、鈴鹿医療科学大学と重複する分野はなく、昨年の6月に包括連携協定を締結し、教育・研究、そして地域貢献をいっしょにやろうとしています。

   特に三重大が三重県とともにやってきた医療・健康・福祉産業を対象とした産学官民連携活動「メディカルバレープロジェクト(MVP)」を推進するにあたって、三重県に薬学部がなかったことは画竜点睛を欠く状況でしたが、今回薬学部ができたことで、この地域の「学」の体制が完全に整ったことになります。MVPの活動にいっそうの弾みがつくことでしょう。

suzuka2.jpg    祝賀会に先立って、新たに整備された白子キャンパスの見学会が開かれました。旧NTTの研修所の跡地が活用され、そこには十二分の広さがあって建物もすばらしく整備されていました。講義室、実習室、コンピュータ室、図書館などのほかに、教育設備としての目玉は、「模擬薬局」でした。無菌室での調剤を練習する「無菌製剤調整室」も完備されているのにはびっくりしました。これは、全国的な薬学共用試験のOSCE(客観的臨床能力試験)のための演習や、病院・薬局実務実習のための事前の実践教育に使われます。カリキュラムをみると、PBL(課題探求型学習)型の演習など、少人数教育も組まれており、質の高い教育をめざそうとする大学の意欲を感じました。

suzuka3.jpg suzuka4.jpg suzuka5.jpg     また、研究設備の目玉としては、最新(600MHz)の核磁気共鳴(NMR)スペクトル測定装置があり、これは三重大にもありません。鈴鹿市や三重県からの貴重な補助金で、質の高い研究を可能にするための機器を整えたとのことです。私立大学が目先の経営だけではなく、このような研究の質の向上を図るために投資をするという決断をされた理事長の高木純一さんと教員の皆さんとの間には強い信頼感が生まれていることを感じました。

   薬学部長は、京大薬学部のご出身で、前三重大医学部教授(元副医学部長)の川西正祐さんです。川西さんは、たいへんエネルギッシュで有能な研究者であり教育者ですが、今回の薬学部教員の人選にあたっては、彼の人脈をフルに生かして、全国から実績のある有能な人材を集められました。そして、今回お会いした教員の皆さんのものすごい意気込みを感じました。

   今年度のわが国の薬学部全体の入学者数は定員数にとどかず、74大学のうち22で定員割れを起こしたとのことです。03年度からの薬学部ラッシュで、今年度を含めて28大学が新設されましたが、そのうち6割にあたる17大学が定員割れとのことです。一方、定員充足率が1.10を超えた大学が20あったとのことですが、今年度新設のために昨年の学生募集が出遅れたハンディにも関わらず、鈴鹿医療科学大学は、その中の一つに入りました。

   雨後のタケノコのように全国一斉にできた薬学部ですが、これからはどれだけ質の高い教育と研究が提供できるか、そして地域連携を推進してどれだけ地域社会から支持を得ることができるかによって、生き残る大学と淘汰される大学が分かれていくのでしょう。

   祝賀会のあいさつでは、国立大学も私立大学も、教育・研究を通した社会貢献という目的は全く同じであることを述べさせていただきました。三重大と鈴鹿医療科学大学はいっしょに力を合わせて、この地域の発展に貢献をしたいと思います。

 追伸
鈴鹿医療科学大学の講堂のフロアには、地元白子に在住しておられ、日展にも出品されていた人形作家、故坂倉俊子さんの人形が展示されていました。坂倉俊子さんは、三重大の元病院長の坂倉康夫さんのお母様です。今回鈴鹿医療科学大学薬学部開設にあたり、ご遺族が作品を寄贈されました。たいへん心の温まるすばらしい作品であり、皆さんもぜひ訪れてみてください。
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