- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

日本の医療は"もの"から"ひと"への大転換が必要
~「米国リハビリテーション医療」の講演から~

   今日は日本の医療と米国の医療の違いについてお話をしましょう。

Y-01.jpg    6月15日に三重大学医学部の同窓会である「三医会」の総会がありました。そこで、三重大の医学部をS47年に卒業され、現在は関西医科大学「リハビリテーション科」の教授をされている吉田清和さんのご講演を聞きました。吉田さんは1985年に渡米され、2年前に関西医大の教授になるまで、ずっと米国で医師として過ごされました。米国での吉田さん自身の医師としてのご経験、米国のリハビリテーション医療の紹介、そしてマクロ的な日本と米国の医療の差について分かりやすく説明していただきました。

   そのお話の中で、米国と日本の医療の差について印象に残ったことを、ほんの一部ですが皆さんにお伝えしましょう。

Y-02.jpg    まず、日本に帰国されて感じられたことは、日本の大学病院の医師や看護師があまりにも少なすぎて疲弊しているということでした。たとえば、ハーバード大学医学部では1学年230人くらいの学生に対して、フルタイムの教員が8000人もいますが、三重大では、1学年100人の学生に対して約240人です。桁が違いますね。

 

   先進国の中でも日本は医師数の最も少ない国の一つで、OECD 諸国の平均が人口1000人当たり医師数3ですが、日本は2で、単純に計算すると14万人も足りないことになります。

   GDP(国内総生産)に占める総医療費の割合は、日本は約7%で、先進国の中では最も低く、それに対して米国は約14%もあります。一方、日本の建設費は14%ですが、米国は7%です。日本は政府予算の中で公共工事の比率が世界でも突出して高いことで有名ですね。ちなみに日本のパチンコは7%とのことなので、日本の医療費はパチンコに使われる金額と同じなのですね。

   日本の総医療費の内訳をみると、薬代の比率が30%にものぼり、これは米国の3倍もあります。また、人口あたりのMRIやCTという医療機器の保有台数が、アメリカの3~5倍もあるのです。また、ペースメーカーやPTCDカテーテルといった医療器具の値段は、欧米の3~5倍もして、たいへん割高な医療器具を買わされています。

   日本の総医療費は先進国の中で低いのですが、その中で“もの”にたいへんお金をかけてきたことがわかりますね。つまり、それだけ“ひと”にお金をかけてこなかったということです。そして、いよいよ、勤勉な日本の医療従事者が疲弊をするという事態になってきました。

   一方日本の急性期病院の在院日数が世界で際立って長いことが指摘されていますね。欧米の急性期病院の平均在院日数は数日になってしまいましたが、日本でも平均在院日数は徐々に短くなりつつあるものの、大学病院の一般病床で約18日くらいです。またリハビリについても、脳卒中のリハビリに要する日数は米国では6日、日本では43日とのことです。米国では急性期の治療と、吉田さんのご専門の急性期のリハビリのシステムが非常によく整備されているのですね。

   米国の医療制度にも改善するべきことは多々あると思いますが、吉田さんのお話をお聞きして、日本が米国から学ぶべきことはたくさんあることがわかりました。そして、医療従事者をもっと増やすとともに、医学・医療教育の充実によって医療の質を高め、一方では薬や医療機器の無駄をなくし、急性期医療、急性期リハビリの集中化と、療養病床等の機能分化を進めることを、計画的に、そしてすみやかに実行する必要があると、改めて思いました。