- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

留学生のジャパン・パッシングを食い止めるには?
~河南師範大学の皆さんの三重大に対する熱い視線~

    今、ヨーロッパの大学への留学生数が急増しており、たとえば英国では2005年度は約36万人で大学生の約25%に達していますが、我が国では、ここ数年12万人弱にとどまり、大学生のわずか3%で頭打ちになっています。特に、中国から日本への留学生は明らかに減少傾向にあります。実は最近、三重大でも海外からの留学生数が頭打ちとなり、やや減少傾向が出ているのです。政府もこのような我が国の大学の国際化の遅れに危機感をいだき、中央教育審議会大学分科会留学生特別委員会で取りまとめられようとしている「留学生30万人計画」では、日本は2025年に留学生を30万人に増やすとしています。ここで30万人計画は、「2025年には留学生の数は全世界で700万人(現在270万人)に達すると予想されており、日本はこの中の5%程度(現在3.3%)を確保すべき」と言うことを根拠としています。

   では、なぜ日本の大学が海外の留学生から人気がなくなりつつあるのでしょうか?英語での授業が少ないこと、奨学金や宿舎などのインフラの整備が遅れていること、そして、世界経済における日本の地位の低下にともなって“ジャパン・パッシング”がおこりつつあるように、留学においても 我が国の大学の地位が低下して“ジャパン・パッシング”が起こっているのではないかなど、いろいろなことが言われています。

   3月14日のブログで紹介した文部科学省大臣官房国際課長の吉尾さんは、奨学金や宿舎などのインフラの整備とともに日本の大学の国際的なブランド力を高める必要があるとおっしゃっていました。宿舎については、三重大は地方大学としての厳しい財政運営の中で資金を捻出し、留学生宿舎の建設(来年春に完成)を決断したところですが、国際的なブランド力の向上(あるいは国際ランキングの向上)の方は一朝一夕には実現できない、なかなか難しい課題です。  

kanan3.JPG  4月21日に三重大の教育学部と交流協定を結んでいる河南師範大の副学長の徐さん一行が学長室を訪問されたので、なぜ、中国から日本への留学生が減っているのか、どうすれば留学生を増やすことができるか聞いてみました。

   すると、徐さんはまず、日本は中国に近くて、日本のような先進国で勉強したいという学生はたくさんいますよ、とおっしゃいました。これは、日本の大学の魅力がなくなり、“ジャパン・パッシング”が起こっていると思いこんでいた私には意外な言葉であり、日本もまだ捨てたものではないかもしれないと感じました。

   徐さんによれば中国から日本への留学生が減少している理由としては、中国で私立大学が増え、また、各大学が新入生の募集人数を増やしていること、また、ヨーロッパやアメリカの大学は中国の大学と連合大学を作り、留学生獲得に努力していることをあげられました。そして、日本の大学も欧米の大学と同じ努力をすれば、留学生は増えるだろうとのことでした。ただし日本のビザの認可を緩和することや、学費や奨学金などの経済的支援も大切なファクターであるとのことでした。

kanan2.JPG    特に強調しておられたことは、海外の大学との連合には大きく分けてツイニングプログラム,ジョイント・ディグリー(共同学位)とダブル・ディグリー(二重学位)の三つがあるが、ダブル・ディグリー(特に学部レベルのダブルディグリー)の方が、同じ程度の年数や学費で二つの大学の学位が得られ、また、入学案内にも書くことができるので、大きなセールスポイントになるということでした。

   実は、三重大の教育学部は全国に先駆けて、天津師範大との学部レベルでのダブル・ディグリー制度を2006年から開始しているのですが、河南師範大の皆さんは、三重大の取り組みをすでにご存じで、こちらが言い出す前に、向こうの方から他の大学にもぜひ拡大してほしいとおっしゃいました。彼らの三重大に対する熱い視線を感じるとともに、政府の国立大学に対する人件費削減政策の中での教員の負担増の問題など、克服すべき問題点は多々あると思いますが、三重大の思い切った国際戦略の方針が間違っていないことを確信した一瞬でした。

   ちなみに、今回同行された日本語科学科長の劉さんのお嬢様も三重大に留学する予定とのことでした。

kanan1.JPG [河南師範大学について]
   河南省は中国のほぼ中央部黄河の南側に位置し、人口が1億人で、鄭州、開封、洛陽などの古い都が数多くある地域です。大学は省都である鄭州市の北に接する人口約560万人の新郷市にあります。中国の「師範大学」は、日本の教育大学とは異なって、数多くの学部からなり、河南師範大学も医学部以外はほとんどの学部がそろっている総合大学で、創立は1923年、学生数は約1万7千人です。本日訪問されたのは、副学長の徐存拴さん、日本語科学科長の劉徳潤さん、図書館長の金俊岐さん、学生処処長の帳向戦さんでした。4月20~22日まで三重大学を視察され、23日には早稲田大学を訪問するために東京へ行かれます。