- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

医学部学生交流
~医学生の相互国際交流は医学教育や医療システムを考え直す良い機会~

   4月2日にアメリカ合衆国のデトロイト市にあるウエイン州立大学医学部の3人の学生が学長室を訪れました。アメリカの医学部は日本と違って、大学を卒業した学生だけが入学を許され、また、4年間で卒業します。今回訪れた3人は、4年生最後の選択的臨床実習のカリキュラムで、海外の大学での実習を希望して、日本の三重大を選びました。

   三重大医学部では、海外の大学との学生交流を積極的に進めており、毎年医学部6年生100人のうち約半数が海外に出向いています。また、海外の大学からも毎年医学生が三重大を訪れています。交流をしている大学は、アメリカ合衆国、タンザニア、ザンビア、中国、タイ、ドミニカなど世界のさまざまな地域にわたっています。

画像1.jpg   三重大生には、アフリカ諸国やドミニカなどの途上国や新興国の大学への訪問も大変人気があります。学生たちは、それぞれの国で、わが国では体験できない病気や医療制度、あるいは医学教育を経験することができ、また、三重大に残っている学生にとっても、海外の学生たちとコミュニケーションをとることにより、国際的な広い視野が培われます。この取組は、文部科学省からも優れた教育の取組として支援を受けています。

  さて、今回訪問した3人は、アメリカと日本の医療システムの違いに興味をもって訪問しました。アメリカでは、医学部を卒業する時点で、自分の専門を決めなければなりません。(現在、日本では、医学部を卒業した後、2年間の臨床研修の修了時に決めます。)Steveさんは皮膚科、Staceyさんは産婦人科、Devonさんは救急に進むとのことでした。また、Steveさんは日本語をしゃべることができました。

  ウエイン州立大学の医学部は、1学年270人ですが、さらに学生数を増やしているとのことです。都会と地方との医師供給の偏在はアメリカでも問題になっているようで、専門医よりも家庭医(総合医)の数を増やすことが目的とのことでした。日本では、今までは専門の診療科に進んで、町医者として開業する時に家庭医的な感じになることが多く、最初から家庭医を育成する仕組みはまだ始まったばかりです。

  話題になった「シッコ」というアメリカ医療の問題点を指摘した映画について質問したところ、あの映画は極端な事例を示しているが、自分たちにとって、アメリカの医療制度を改めて考えさせられる良い機会になったと言っていました。私は、日本では以前はいつでも誰でも医療が受けられる健康保険制度であったが、国は総医療費の抑制や医師数の抑制を続け、最近では患者さんの自己負担が増え、日本の良き医療制度がくずれつつあること、そして、医師の給与も下がりつつあることを説明しました。

画像2.jpg   短時間でしたが、有益な会話の時間をもつことができました。彼らには、三重大に滞在する1ヶ月間、ぜひ、日本とアメリカの医療システムの違いを体験していただき、感想を聞かせていただきたいとお願いしました。同時に、伊勢神宮や忍者など、三重の文化にも接していただきたいと申し上げました。

 彼らに授業料のことを聞くと、以前より倍に跳ね上がって2万6千ドルになったこと、去年までは海外の実習に大学の支援があったが、今回はなくなったとのことで、アメリカの大学の財政も苦しくなっていることが窺えます。いろいろな困難を克服して、このようなすばらしい国際交流の取組がさらに発展することを期待しています。