- 学長ブログ ある地方大学長のつぼやき -

三重大学長の「つぶやき」と「ぼやき」のブログです。

チェンマイ市の市長は聡明な若き女性

 ~タイで開かれた三大学国際シンポジウムに参加して~

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 10月22日から25日まで、第14回三大学国際ジョイントセミナー・シンポジウム(The Tri-University International Joint Seminar and Symposium)がタイ北部の古都チェンマイ市にあるチェンマイ大学で開催されました。チェンマイ県は人口165万人、チェンマイ市は人口約15万人(一説では27万人)を超え、人口ではタイで5番目とされています。この国際会議は、三重大学、チェンマイ大学、中国の江蘇大学の3つの大学がイニシアチブをとって14年前から毎年持ち回りで開催しています。

 この会議の特徴は、学生が中心となり、「人口」「食糧」「エネルギー」「環境」というグローバルかつ極めて重要な4つのテーマについて発表し議論することです。学術的な側面に加えて、教育的な意味が大きく、異なった国の学生どうしが、議論や懇親会などの交流の場を通して友情を広げ、お互いの文化を理解しあえることは、たいへんすばらしいことです。このユニークな学生主体の国際会議に賛同する大学は次第に増え、今回はアジアを中心に約30の大学が参加しました。来年は江蘇大学、再来年は三重大学が主催します。

 さて、22日の朝に、開会式がチェンマイ大学内にあるタイの伝統的な式場で開催されました。チェンマイ大学長の挨拶、チェンマイ市長(Chiang Mai Lord Mayer, Captain Dr. Deuntemduang Na-Chiengmai)の特別講演、江蘇大学長の挨拶、三重大学長の挨拶という順で式典が執り行われることになっておりましたので、私は、会場の前の方に特別に設けられたテーブルに案内されました。テーブルにはチェンマイ大学長や江蘇大学長とともにチェンマイ日本国総領事の横田順子さんが着席されておられました。そして、市長の到着を待っていたところ、私の隣にかわいらしい感じの女性がパワーポイントの原稿を持参して着席されました。名刺を交換させていただいたところ、そこにMayer(市長)と書いてあり、この時に初めてその女性が市長であることに気がつきました。私は、勉強不足のために、プログラムに書いてあった「キャプテン」や「Lord(卿)」などという物々しい肩書きと「ドウテムドウアング」という重厚な響きの名前から、てっきり男性とばかり思っていたので、一瞬自分の目を疑いました。

 彼女はチェンマイ大学で経済学を学び、その後アメリカのカリフォルニア大学で経済学博士の学位を取得され、帰国後は軍の大学で教鞭をとられた後、民主党の国会議員候補にもなり、この6月25日に行われたチェンマイ市長選挙で、タクシン前首相の出身地であるチェンマイで、従来圧倒的に強かった旧タイ愛国党候補を地すべり的勝利で破り、若干35歳で市長に就任した才媛です。ご親族はお父様が地方議会の議員をされていたなど、この地域の名門ということでした。

 選挙後、選挙管理委員会は、市長立候補届け出に印紙が添付されていなかったことや地方税未納などを理由に彼女の当選を無効としていたようですが、チェンマイ県行政裁判所は「処分は違法」との裁決を下し、当選が確定したとのことです。彼女の当選は、選挙の買収が当たり前であったタイの政治の新しいうねりを象徴するできごとであったようです。

  講演ではプミポン国王の提唱する「Sufficiency Economy(足るを知る経済)」という哲学に基づいたチェンマイ市の政策を、パワーポイントを使って流暢な英語で説明されました。これは、グローバル化経済の影響による副作用やショックを和らげ、持続循環型社会、地方の格差からの脱却、競争よりも助け合いの精神を目指すといった理念のようで、彼女はその講演の中で、国王の哲学の意味が正直なところ最初は良く理解できなかったと告白しています。一見、グローバルな弱肉強食の競争社会の流れに逆行するとも受け取れる国王の哲学を、彼女の学んだアメリカ流の経済学といかに調和させ実現していくかという手腕が問われているものと感じました。

  講演は、このような難しい政策に関することでしたが、気さくな親しみをもてる話しぶりに、私はすっかり彼女のファンになってしまいました。