- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

2015年の年頭

本年は羊年です。羊は古くから家畜化された動物、おそらく犬に次いでではないかと考えられています。羊は食料として、特にその脂肪は重要な栄養源でした。羊の毛はフェルトとして敷物や衣料として大いに利用されていたのはご存じの通りです。
羊はわれわれの生活、特に中国ではきわめて重要な位置を占めていたことが現代の漢字に残されています。羊に食で「養」、羊に大で「美」、羊に我と書いて「義」です。いずれも現代日本で重要なメッセージです。

本年4月に学校教育法と国立大学法人法の一部が改正されます。その改正の概要は大学運営における組織の改革です。そのために、三重大学の規定を改正し、それを教職員の皆さんによく知ってもらわなければなりません。大学ではこのことが一番難しいことかもしれません。そして、2016年より始まる第3期の中期目標・計画を策定し、運営費交付金や競争的資金の獲得に向けて体制を整えなければなりません。私たちが変わることが新しい夢を開くでしょう。

しかし、人や組織が変わることが如何に難しいかは歴史が示すところです。変わることができない理由を大人の知性に求めたのがハーバード大学のロバート・キーガン教授らです。知性には環境順応型知性、自己主導型知性、自己変容型知性の三段階があり、その段階向上により思考様式を変容させることが、人が変わるためには必要であるとしています。
第一段階の環境順応型知性は集団思考となりやすく、その結果として善良なドイツ人がナチスの命ずるままに残虐な行為に陥ったり、温厚な日本人が軍部に引きずられて侵略行為を繰り返したりしました。次の段階が自己主導型知性で、自分が求めている情報には実に優秀で積極的に取り入れるのですが、自らが求めていない情報には冷淡です。自分の専門領域では素晴らしい仕事をするのですが、社会の中でどのような位置づけにあるのかを理解しようとせず、独善的になってしまいます。多くの大学教員はこのレベルから抜け出そうとしないのでは? 最も高いレベルは自己変容型知性です。自己主導に加えて計画や思考様式の限界を教えてくれる情報を得ようとする知性です。常に現在の思考枠組みの限界を理解しようとする姿勢を維持します。そのため欠陥を指摘された時に自分が否定されたとは感じません。

大学でも既存の仕組みを疑ってみましょう。例えば現在の学部編成は永続的なものか、それを変えることできないのか。誰でも変えることには大きな不安を伴うものですが、そこを自己変容型知性で乗り越えると計り知れないメリットが得られるかもしれません。これらの根底になっているのは「人間は何歳になっても成長できる」との知性ではないでしょうか。

教育、研究、社会貢献については個々の教職員自らが今年の目標に向かって邁進してくれることを信じています。大学全体としては教育では専門教育に対する一般教養教育を一層充実しなければなりません。既に三重大卒業の優秀な人材が国内外で活躍していますが、それに続く人財を輩出しなければなりません。教育の国際化も重要です。英語での授業を増やすことが、受け入れ留学生、派遣留学生の増加につながるでしょう。
研究については自らの研究の位置づけを再確認しましょう。夢と現実の乖離を認識した上で、地域との素晴らしい共同研究での成果を世界に向けて発信して下さい。研究者としての倫理については常に自分の命題として考えなければなりません。研究不正は研究者はもとより組織も命取りになることを強く認識し、それを許さない土壌を三重大学に作りましょう。
地域との連携では三重大学の発進力は現在非常に高いものがあります。「第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会(第3回)」で鈴木英敬三重県知事が三重大学と県を中心とする行政、県内の企業との連携の成果を発言してくれました。そのことにより文部科学省や財界が大いに注目してくれています。地域圏の大学の一つのモデルになってきています。 

羊の歩みは馬のように速くはありませんが着実です。十二支で馬の後に羊を配したのは走りすぎた後は少し考えながら進もうとの教えかもしれません。皆さんの2015年の活躍を期待しています。