- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

考え方ひとつで変わる

現在の日本人は高望みをしすぎているのでは、と感じることが少なくありません。豊かさを享受しすぎたのか欲が深くなり、「もっともっと」とこだわってしまうのでしょうか。そして、自分だけが不利になっていると考え、不満の渦に巻き込まれていくのではと考えたくなります。

人は考え方ひとつで変わります。明治時代の物理学者で随筆家でもあった寺田寅彦氏は、「健康な人には病気になる心配があるが、病人には回復するという楽しみがある」との言葉を残しています。2度も夫人を亡くされた氏が看病の中から見つけた言葉だったのでしょうか。

小説「氷点」の作者である三浦綾子さんの言葉「何もなかった時代が最高に幸せだった。一つ一つ揃えていくことで一つずつ幸せになっていけた」も心を打つものです。小学校教員として勤めていましたが、肺結核を発病し、敬虔なクリスチャンとなります。結核とそれに伴う脊椎カリエス、心臓発作、直腸癌、パーキンソン病などの病魔に苦しみながら、次々と著作を発表しました。神を信じることにより、貧しさや病の苦しみを克服しようとしたのでしょう。彼女の甥が札幌で脳外科医として活躍、私の信頼のおける友人です。

ドイツの哲学者ショーペンハウエルは「幸せを数えたら、あなたはすぐに幸せになれる」と説きます。不幸な人と幸せな人の違いは、見ているところが違うだけで、不幸な人は不幸を見つけるのが上手、幸せな人は幸せを見つけるのが上手と話します。「幸せ」はなるものではなく気づくもの、そう考えると誰にでも簡単にできるのではないでしょうか。

少子高齢化が進む中、総務省の人口統計によると2013年10月では総人口は前年より約22万人減少したこと、65歳以上の人が25%を超えたとことが報告されました。この時代を高齢者はどう生きるかが重要です。「年相応」を考えてみましょう。年齢に似つかわしいさまですから、当然昔できたことができなくなる。特に60歳を過ぎるころから毎年毎年できなくなったことに気づくでしょう。これは全く当たり前でこだわらない。嘆くこともない。身体的な観点からみると、あちこちが痛くなって当たり前。年を取ってどこもどうもないのも疑ってみる必要があり、こういう方には検診をお勧めします。

天皇皇后両陛下を例に出すのは少々不遜ではありますが、お二人の素晴らしさには頭が下がります。身体的苦痛を多くお抱えになりながらも、そのことをおくびにも出さずに振る舞われるお姿には感動を覚えます。病院に来院する高齢の患者さんに「陛下と同じですね」と説明すると安心した顔で帰ります。

「もう○○ができない」ではなく「まだ○○もできる」。残存機能に着目して、こだわりを捨て楽しく生きましょう。