- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

天空をかけるあなた

今年は午年である。馬について考えてみよう。

人間と馬のつながりを最初に見ることができるのはフランス・ラスコー洞窟に描かれた壁画であろう。描かれている動物の中で馬がもっとも多いと言われている。およそ15,000年前のことである。槍が刺さった馬として描かれているように狩猟の対象であり、重要な食糧源であった。6,000年前に黒海とカスピ海の間の中央アジア地域の牧畜の民により家畜化されたと考えられている。現在冬季オリンピックが開催されているソチの近くであろうか。ヒツジやウシに比べると家畜としては弟である。アフリカには気性の激しいシマウマしか存在せず、家畜化に成功しなかったのは後進性から脱却できなかった原因の一つかもしれない。

遊牧民による騎馬軍団が戦争に革命を起こした。世界を制覇したモンゴル帝国である。そして現在、人が作り出した最高傑作の芸術品である競走馬サラブレッドが世界でその美しい疾走を見せてくれている。Thoroughbredが日本でサラブレッドと発音されていることを初めて知り驚いているが、英語の意味を考えるとなるほどと納得する。thoroughは初めから終わりまでとか貫いての意味で、bredは種とか血統であるので、まさに競馬で勝つことを目的として日々の交配と淘汰を繰り返していることにふさわしいネーミングである。しかし、外来語の日本語化は外国で通じないので困惑することが多い。

午年の悲しくいささかばかげている言い伝えは丙午(ヒノエウマ)の女性についてである。これは江戸時代の浮世草子作家井原西鶴が「好色5代女」の中に八百屋お七を取り上げたことに発している。丙午生まれのお七が恋しい人に会いたいあまり江戸の町に火付けをして処刑される話をもとに、この年生まれの女性は気性が激しく亭主の面目をつぶすとの迷信が広がった。明治39年の丙午では出生者が前年に比べて5%少なくなり、その60年後の昭和41年には26%も減少している。このような現象は世界的にみても記録がなく、文明国日本で言われもなき迷信に踊らされている。この点では先史の時代の人々の精神構造とあまり変わりのない情けないことだ。12年後の丙午には例年並みの出産があることを願っている。

天空をかける馬のごとく大いなる飛躍を。