- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

インドネシアで見たもの、聞いたこと

本年6月インドネシアを訪問した。最初である。ジャカルタの空港は巨大である。大きな国土で巨大な人口を抱えているのに鉄道や道路整備が遅れていること、その上島間の移動などのため飛行機の利用度は高い。そのため空港には人がいっぱい、国内線は1-2時間遅れるのは当たり前とのこと、先進諸国の常識とは異なる。しかし、国営のガルーダインドネシア航空がほとんど独占状態であるが、小さな航空会社も少なくない。世界的にみてインドネシアの航空会社の危険度は極めて高いといわれているらしい。あまり利用したくないが、他の方法がないので致し方なしである。空港の拡張計画があるが、そのために運航システムの充実や人材の養成が先決であろう。優先順位を誤ると大事故になりかねない。

ホテルへ入るのに一苦労する。極めて厳しい警戒のためである。まずは車のチェックで、タイヤは金属探知機で、ダッシュボードとトランクを開けさせられる。それが済んでホテルの入り口で荷物検査がある。爆弾テロ防止のためとのことである。特にアメリカ系資本のホテルは危険で、昨年も2件の爆破事件があり多数の死者が出た。アメリカには申し訳ないが友人の勧めもありインドネシア資本のホテルに滞在することにした。世界に13億人以上の信者を持つイスラム教は多くの人に受け入れられる穏やかな宗教であろうが、原理主義に基づく過激派がテロ行為を繰り返している。残念なことである。

三重大との連携関係にある国立ボゴール農科大学を訪問した。現大統領のユドヨノ氏が卒業した名門大学である。ジャカルタからよく整備された高速道路で2時間、町の中心に大学のキャンパスがあり、その中にショッピングモールやホテルがある。国立大学であるが企業的経営感覚が豊かである。わが国に比べるとはるかに規制が少ないように思える。郊外にもあるキャンパスを訪れるが、途中の道は悪く、整備されているジャカルタ周辺の高速道路との格差が著しい。周辺の家は豊かとは思えないが、前におかれている車は、ほとんどが日本車であり、いずれも高級車である。2台所有している家庭も少なくない。平均所得が日本の10分の一程度で何故購入できるのかが不思議である。友人の話ではローンで買うのだが、中古になっても価格が下落しないので安易に購入するらしい。ローンが払えなくなって車を手放すことになっても損害はほとんどないとのことである。このような販売戦略もあるのかもしれないが、そのうち新車が売れなくなるのではと心配になる。

三重大学と大学院ダブルディグリーを実施しているスリウィジャヤ大学の卒業式に出席した。1500人の学生とその家族で体育館はすし詰め状態、国歌斉唱で式が始まるが、厳粛な感じは全くなく、皆楽しそうに歌い、まさにピクニック気分である。全員に卒業証書を学長が渡すので、4時間以上かかるとのこと。学長は大変である。証書の授与はGPA(Grade Point Averageの略で、各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成績評価値のこと)の点数の高い優秀者より始まる。ざわついた中、延々と続く。副学長、学部長らの登壇者は自分の出番以外はのんびりしたものでアイフォーンを操作したり、お菓子やお茶を飲んでいる。規律に厳しく、分刻みに進行される日本式儀式とは全く異なる、楽しく愉快な式典である。昼食は講堂周辺の芝生での家族全員の宴で、我が国では失われつつあるかすでに失われた家族の絆がある。幸福感にとって最も大切なものは人の絆であろう。

カリマンタン島の山中にあるアダロ鉱山を視察した。16人乗りの小型プロペラ機で出発。心配していた天候も微風快晴で安定した飛行である。見渡す限りの巨大な石炭の露天掘り鉱山である。石炭を採取するということは、それを覆っている表土を除去することが作業の中心であることを初めて知った。90トンから200トンのダンプカーが轟音と土煙を舞い上げながら地底より駈けあがってくる。日本のコマツが協力している。大規模な露天掘りは間違いなく山林を破壊し、環境問題を引き起こすであろう。コマツは掘り起こされた荒れ地にジャトロファという極めて生長の早い熱帯性植物を栽培し、緑化運動を展開している。さらに、その実でバイオディーゼルを作っている。軽油に20%そのバイオディーゼルを混ぜて、ダンプカーを動かし、環境と開発のバランスを考えた21世紀型資源開発を目指している。コマツの取り組みに敬意を表したい。

地球環境は悪化の一途をたどっている。しかし、あきらめることなく、多くの英知を結集し、解決方法をみつけよう。

三重大学は知の拠点です。それを集約し明日へ。