- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

女性が支える国モンゴル
―男女共同参画社会を再再度考える

こんなタイトルを付けると「うそー」と言われそうですが、真実です。モンゴルについての日本人のイメージは偉大なるジンギスハーンとモンゴル帝国、遊牧民と大草原の国、白鵬や朝青龍などで代表される男社会でしょうか。人類学的には日本人とモンゴル人の多くが蒙古斑を持つこと、日本語とモンゴル語はアルタイ系の言語であることなどから、われわれは多くの共通点を有しているのではと考えられています。その流れの中で、江上波夫氏が唱えた「騎馬民族征服王朝説」が多くの日本人の心を躍らせました。その真偽はともかくとして大いなるロマンであることは間違いないでしょう。

本年8月、国立モンゴル大学との大学間連携でウランバートルを訪れました。短い滞在でしたが強烈な印象でした。長い歴史を経た現在では日本とモンゴルは共通点がないに等しいくらいかけ離れているように感じました。時間や空間にこだわる日本人とそれに無頓着なモンゴル人、集団行動のわれわれと超個人主義の彼ら、などメンタリティーでは対極にあるように思えます。女性の果たす役割にも大きな違いがあります。モンゴルでは全労働者の半分は女性で、大学生の73%、教師の80%、医師を含む医療従事者の83%は女性です。モンゴル女性は外でも家庭でも大きな力を有しています。その背景として経済力も有し、家庭でも商売でも財布のひもを握っているのは女性とのことです。

大学進学率も女性が圧倒的に多いことは、日本などの他の多くの国とは全く逆です。モンゴルの病院を訪れると外来を担当している医師の9割が女性です。従って収入も一般的には女性が多いようです。女性が働いて、男性が遊んでいる国と言っても過言ではありません。馬に乗って羊や牛の群れを追いかけている多くは子供であり、男性はモンゴル騎兵軍団として戦場を駆け巡るイメージが払拭されずにいるのか、今も家庭での責任は重くなく、大型の家畜を追いかけて長距離遠征をし、酒におぼれることも少なくないとのことです。白鵬や日馬富士などのモンゴル出身の力士には「そんなことはないはずだ」と叱られそうですが。

街を歩くとお腹の大きい女性が多いのに驚かされます。そのため、現在急速に人口は増加していますが、それでも270万人で日本の4倍の面積に僅かの人が暮らしているのが現状です。

結婚前に子供を産むことは一般的とのこと。シングルマザーも珍しいことではなく、そういう母親も子供も差別されることはないとのことです。子だくさんの女性と結婚する男性も少なくなく、子供たちを同じように可愛がります。

女性も男性に負けないぐらいに力持ちです。一晩ゲルで宿泊しましたが、そこで働くアルバイト学生はほとんどが女性で、食事の世話から力仕事まで全てをこなしていました。夏休みの3か月で学資をためると明るく語るのが印象的で、卒業したら教師になるという。こんな逞しい先生に教えられる子供たちは幸せでしょう。

母親が赤ん坊に人前で授乳することは恥かしいことではないとのことです。(私の子ども時代は日本でもそのような感じでしたが) 実際に街でも授乳場面をよく見かけます。その影響もあるのか胸を大きくはだけた服装の女性が多いこと、身体が触れることをあまり気にかけていないようです。こちらがドギマギするような場面に何度か遭遇しました。男女関係でも女性が積極的に思えました。

まさに女性に支えられている国、モンゴルです。大草原を馬に乗って長い期間駈けめぐる男たちに憧れている私は女性の敵かもしれませんね。