- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

もう一度男女共同参画社会を考える

わが国で女性の就業率が低いのはただただ男性の不理解によるものと思っていた。私自身も結婚と同時に家内にはそれまでの仕事を辞めてもらった。私は話し合い合意の上の了解事項と認識しているが、彼女は半ば強制措置であったと思っているようで、今でも稀にではあるが不満を口にする。その後の彼女の行動を見ていると、その時々の現状に上手に馴染んでそれなりに楽しくやっているようにもみえる。逆に家の中のことは私に一切口を挟ませないし、容易に台所にも入れない。どう考えてみても家では妻が優位であるのがわが家である。女性の適応力の素晴らしさと逞しさには驚かされる。

最近、私のこれまでの認識を覆しかねない報告を目にした。三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」よりの2011年度データブックがそれである。
頼もしい数字から挙げると三重県の女性一人当たりの平均出生児数(合計特殊出生率)は全国平均を上回っている。2006年の1.35を底にわずかながら上昇を続け、2010年は1.51となっている。全国平均が1.39であるので少しばかり嬉しい数字である。しかし、人口規模を維持する数値が2.07であるので、この出生率では少子化には歯止めがかからない。男性の生涯未婚率が20%を越え、今後さらに増加するとの報告を聞くと、我が国のように結婚と出産が強く結びついている国では早急に解決を図らなければならない少子化対策の一つである。未婚の人も結婚願望はあるとのことなので、昔のように「見合い」を積極的に奨励すべきであろう。一方で離婚率は上昇している。最も多い申し立て動機は性格の不一致である。次に、暴力をふるう、生活費を渡さない、精神的虐待、異性関係と続く。2番目以降は理解できるが、一番多い性格の不一致には納得がいきかねる。性格がどのようにして形成されるかについては多くの要素が考えられるが育った環境が大きく作用しているのは間違いない。異なった家庭で育ったものが一緒に生活するということは、もともと存在する不一致を一致点に導いていくことが結婚である。そのことを前提とすると、わがままが過ぎるのではと思ってしまうが、皆さんは如何?

2011年度のデータブックに戻る。未婚女性の考える理想ライフコースとの問いに対する答えは? 20年前に比べると減少しているが、専業主婦が理想とする人が全体の20%もあるのは驚きである。2002年の10年前の統計に比べるとやや増加傾向にあるのも気になる。男性がパートナーに専業主婦を望む率は僅か10%であることは何を意味しているのか?

先のことと矛盾すると思われる国際比較データも掲載されている。「男は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成、どちらかといえば賛成は我が国の男性で65%、女性でも57%と反対派を大きく上回っている。驚きの数字である。スウェーデンでは反対派が圧倒的に多く、男性、女性とも85%以上となっている。フランスでも80%が反対派で、アメリカでは60%、韓国でもわずかながら反対と答えた人が多くを占めている。しかし、三重県の統計では賛成派は男性で48.1%、女性で40.4%と低く、先の国際比較のデータは70歳以上の三重県人の値と一致する。男女ともに若い世代では賛成派は少ないが50歳を過ぎると増加する。賛成派が増える年代は男性が早く増え始める。若い女性でも3割以上の人が家庭を守るべきとの考え方をしている。「理想とする」とは10%程度の開きがあるが本音と建前のギャップによるものか?

女子大学生や女性研究者の現状をみてみよう。全国の人文科学系の女性比率は上昇し続け、66%に達している。2012年度の三重大学人文学部への女性入学者は全体の55%を占め、文化学科では75%を占めているので全国と同じ傾向である。一方、理系学部では女性の比率はまだまだ少なく、特に工学部では10%前後である。研究者に占める女性の割合は13.6%と極めて低く、その理由として家庭と仕事の両立の困難さ、育児後の復帰の困難さなどが挙げられているのは大学として対策を考えなければならない喫緊の課題である。東欧やロシアで40%以上、英国、米国は35%、フランス、ドイツは25%であることからすると、世界的にみると研究者は女性が選びやすい職業であるかもしれない。

三重大学の女子学生の多くは実に溌溂としている。そして優秀である。将来はバラ色にみえる。しかし、学生から社会人となり数年すると、男性優位の組織の中で、大きな壁にぶつかり、徐々にその輝きを失っているようにみえるが私だけの思い過ごしであろうか。結婚、出産で数年間のブランクができると浦島太郎となって職場復帰を一層困難にする。家事育児に男性からの協力が得られにくいとすると家庭が職場とならざるをえなくなる。
この日本の現状はやはり世界の規格から大きくはずれている。グローバル化を推進するためには変えなければならない考え方である。この話を始めると男女双方がヒステリックとなりがちで議論が進まない。日本が生きていくためには世界標準をクリアしなければならないのは事実である。
「みんなで変われば怖くない」は日本の得意技であるはず。