- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

男女共同参画社会を考える

ニコラス・ウエイド著の「5万年前 このとき人類の壮大な旅は始まった」の中に書かれていることを要約すると以下になる。
5-7万年程前、単に解剖学的なヒトから言語での正確なコミュニケーションができ、さらに装飾品を作ったりすることができる行動の上でも現代的な人へと進化した。1万年程前に起こった定住はこれに匹敵するほど重要な変化であり、考古学者は定住に移行したことを革命と呼んではばからない。現在の狩猟採取民をみると、私有財産をほとんど持たないので富の差はなく、誰もがほぼ対等である。一方、初めて出現した定住コミュニティーの社会組織は全く違っていた。家を建て、ものを貯蔵したことが私有物を持つことに拍車をかけたようだ。私有財産が認められると、あるものは他のものよりたちまち多くを手に入れ、地位が高くなった。こうして昔ながらの平等主義は消え失せ、階層社会が出現した。そこには首長と平民、富めるものと貧しいものがいた。その中で互恵性(ギブアントテーク)が生まれた。互恵的コミュニティーを持続させるために「たかり」行為に対抗する手段を持つ必要が生じ、それが宗教として発展していった。
言語、互恵性、宗教が人の社会をまとめている3要素である。しかし、はるか古い時代、およそ170万年前に人類が適応して、類人猿社会と決別したもの、それが男女の絆である。男女の絆を大切にして、女性は喜んでたった一人の男性の子供を産もうとして、そのお返しに男性は自分の家族を進んで守ろうとしなければ、人間らしい行動の多くは発達しなかったに違いない。

ここからは私論になるが、それではどうして男女の絆が発達したか?進化論的に言えば、男性が女性を奪い合う闘争を、またその逆のことを回避できれば生産性が高まるからと説明できるが、論理的ではあるが面白みはない。そこでまったく別の視点で考えてみると、直立二足歩行の影響が最も強いのではと思える。直立二足歩行による脊柱構造の変化は仰向けに寝ること(仰臥位、空を見上げながら寝る)を容易にした。これは対面でのセックスを可能にし、お互いの表情を確認しあいながら生殖活動を営むことができるようになり、これまでとは違った感情が芽生えてきた。紛れもなく愛おしさを認識し、それを未熟ではあるが言葉のようなものとして表現することができたのではと考えられる。まさに男女の絆の成立である。

三重大学はタイにある多くの大学と連携を結んで、積極的に交流を勧めている。多くの留学生を受け入れているし、教員の交流も活発である。そのため私自身も毎年1-2回はタイの大学を訪問する。女性の社会進出の多さに驚かされる。80%以上の成人女性が就労している。この数字は世界的にも極めて高い数字である。その理由はいろいろ考えられている。男性は僧侶になることを尊いとし、女性は経済活動により得た収入を僧侶に捧げることを良しとする。女性を中心とする家庭生活も大きな理由となる。3食のほとんどが外食であるため、女性が家事から解放されていることも大きい。男性が僧侶、軍人、警官などになるため、女性の働く場が開かれているが、意志決定の場への進出は未だ少ないとされている。しかし、現首相は女性であり、王女の活躍もめざましい。タイから学ぶべきことは多い。

先日、名古屋での会合の後、近鉄電車にて帰津。金曜日の夜、21時15分名古屋発である。そこではまさに女性優位の光景が繰り広げられているように感じた。隣の20歳後半と思われる男性はジュースとお菓子を食べながらケータイを操作していたが10分もすると昼間の疲れからか眠りに落ちた。私が津で下車するまで睡眠中であった。寝顔にも疲労感が漂っている。
斜め前には隣の男性と同年代と思われる女性は出発すると同時にバッグの中から缶を取り出し、飲み口を空け、ゴクゴクと美味しそうに喉を鳴らしている。ハイボールの缶である。
飲みながらケータイを操作し続けている。一時も休みなしである。一杯ひっかけながら仕事をこなす逞しい女性である。
前席の初老期夫婦(と思われる)。主人はアルコールでも入っているのか健やかに眠っているが、隣の夫人は熱心に読書をしている。後ろの席は二人づれの若い女性。小さな旅行ケースを持っているので週末を利用した小旅行への出発か。しきりにガイドブックや地図を拡げて楽しそうに会話をしている。大きな荷物を所持している男性乗客の多くは週末に帰宅している単身赴任者に見える。顔や姿勢に疲労感が漂っている。この車両の女性優位は動かない。

先日、ソウルでの大学連携の国際会議に参加した。中国、タイ、ベトナム、フィリピンなどのアジア諸国の国際担当コーディネーターは全て女性であった。彼女らが英語で自大学の宣伝をし、愛想を振りまくから連携もスムースに進むようである。わが国や大学が求められている国際化の担い手は女性である。高い能力を有し、英語も堪能な魅力的な女性達がテレビ界で活躍しているが、彼女らの本来の能力を十分に生かしているとは思えない。彼女らに国際舞台への進出の機会を!