- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

入学式式辞

 入学式の式辞の要約を通信します。平成24年度の入学者は大学院生を含めて1983名です。

三重大学の源流は津の藤堂藩の藩校であった有造館と伊勢の外宮の中にあった豊宮崎文庫です。400年近く前にスタートした日本で最も古い国立大学です。その後、師範学校、高等農林学校、県立大学などの多くの流れが合流、成長してきました。現在は人文学部、教育学部、医学部、工学部、生物資源学部の5つの学部、研究科に地域イノベーション学研究科の、5学部、6研究科です。わが国はもとより世界の大学との交流や連携を通して教育、研究の機能を強化しています。また、多くの附属施設も有しています。三重県の医療の中核としての附属病院、教員養成の実践の場である附属学校園は、医療や教育で県民の厚い信頼を得ている施設です。農場、演習林、水産実験所や練習船勢水丸も農業、林業、水産業の教育研究や実践の場として利用されています。在学中に全員が是非一度は訪れて欲しいと願っています。

 三重大学は素晴らしい自然環境に包まれています。伊勢湾に輝く波の翠、鈴鹿、布引山脈や学内に息づく樹々の翠、白い雲をたなびかせる澄み切った空の翠、3つの翠、三翠が三重大学の未来を指し示しています。そのため、世界一の環境先進大学を目指すことを目標に掲げ、教職員、学生が一体となってキャンパス整備に努めています。本年4月よりはスマートキャンパス実証事業により、エネルギーマネージメントシステムの確立やCO2削減に向けての取り組みがスタートします。自分たちの力で建設した環境・情報科学館、図書館や共通教育校舎の改修により学生の皆さんの学習環境は著しく改善すると思っています。その中で、三重大学の教育目標である、考える力、感じる力、コミュニケーション力を養い、生きる力が身につける新たな「学び」をスタートさせてください。この学びはスティーブ・ジョブスの世界からの脱却とも言えるのではないでしょうか。時にはアイフォンやアイパッドを使わないで、友人、先輩と議論を繰り返しながら学習効果を高めてください。まさに、ラーニングコモンズの実現です。
本年度の入学者は三重県出身者が全体の43%を占め、愛知県が35%です。岐阜県と静岡県を加えると85%近くが東海地区の学生です。まさに地域圏、特に東海圏の大学です。大阪が3%、関西圏全体を加えても10%と少ないのが気にはなります。幸いにも全国40の都道府県からの学生が入学してきてくれています。男子学生は愛知県39%で、三重県の38%を上回っていますが、女子学生は49%が三重県と半数近くを占めています。この数字は娘を思う親心の現れでしょうか。少し考え過ぎかもしれませんが。外国からの留学生が10名います。いずれの学生にも三重の歴史をよく知ってほしいと思っています。
三重県の伊勢に神宮があります。1年後の平成25年に式年遷宮を控え現在でも賑わっていますが、江戸時代にはほぼ60年周期で爆発的ブームを巻き起こしたのが伊勢への「おかげ参り」です。1830年には当時の日本の総人口の6分の1以上の人々が半年間で伊勢を訪れたとの記録もあります。集客力は現在の万博をしのぐものです。歩くことが主な移動手段であった200年近くも前のことです。この驚異的な旅行ブームを仕掛け、それを可能にしたのは伊勢人の独創的な発想と行動力です。宅配便、旅行クーポン券、団体割引や宿の予約システムなど現代の旅行代理店の原型を生み出しました。
真珠王、御木本幸吉氏も三重県鳥羽市の出身です。商才と向上心と社交性により成功を勝ち取ります。天然真珠など志摩地方の特産物が中国人向けの有力な貿易商品になると考え、実行に移します。天然真珠だけでなくアワビ、伊勢エビ、牡蠣、蛤などの商品を扱うだけでなく、物産品評会などを通して地元の産業振興にも尽力します。現在とよく似た時代背景と思いませんか。しかし、危機が訪れます。天然真珠を生み出すアコヤガイが乱獲により絶滅しかかります。が、御木本翁の挑戦への意欲は衰えません。貝の養殖に何度も失敗しますが、発想の転換により貝の中に異物を挿入し、ついに真珠の養殖に成功します。数々の苦難を乗り越えられたのは、彼の成功するはずだとの信念と彼を支える多くの友人知人がいたからでしょう。
大学時代には遠慮せずに失敗をしてください。失敗を勧めるとは可笑しいと思うかもしれませんが、失敗すると「どうしてそうなったのか」を自分の頭で考えるようになります。それを繰り返すことにより考える力はもちろん自らに自信がついてくるでしょう。自信の有無がいかに人々の行動や成績を左右しうるかは、数々の実証的研究によって証明されています。「懸命にものごとに取り組むほど、人の意志決定能力は高まる」と信じている人は自らチャレンジングな目標を掲げ続け、優れた課題解決の戦略を駆使して、成果を上げることができます。自信をつけるということは「成功することができる」という信念を持つことだと思います。そして、学問はもとより、クラブ活動にも積極的に取り組んで欲しいと願っています。

 三重大学はこれまで地域との連携による独自性溢れる三重大ブランドを数多く作り出してきました。地域を重視することは地域に閉じこもることではないことは先の伊勢の神宮発展の経緯をみれば明白です。目的は地域であってもわれわれの活動の場は広く世界に求めなければなりません。そのことにより、国際的に注目を集める教育・研究の拠点を形成し、学際性に優れた成果を創出することになります。そのためには、皆さんが積極的に海外を目指して下さい。大学は応援します。

 新入生の皆さん、三重大学の佳き伝統である教職員、学生の一体感をこれまで以上に強め、生き生きとして元気で明るい三重大学を作りましょう。三重大学や三重という地域を良くしようとの意識を持って欲しいと願っています。その気持ちで着実に一歩一歩前に進むことができれば、素晴らしい地域圏大学として評価されるでしょう。われわれの明るい未来のために、みんなで手を組んで、三重大学をこれまで以上に社会から期待される大学として伸びましょう。