- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

卒業式

 今回は卒業式での私の話の要旨を通信します。

 3,11東日本大震災後、われわれの社会の在り方は大きく変化しようとしています。自己中心の生き方が重要であるかの風潮の中、社会の絆を大切にし、ともに助け合う共助の精神を貴ぶ意識の流れが大きくなりつつあります。この流れをせき止めることなく、社会の基本原理と位置づける必要があるでしょう。人類進化のビッグバンの一つは人がコミュニティーを作り、その輪を徐々に大きくしていったことにあります。健全なコミュニティーとはそれを構成する人々がお互いを理解することから始まるでしょう。その中で、自己を確立して正しい判断ができる人、そのことはまさに「風評に惑わされない人」となることを意味するでしょう。

 また、教育や研究の在り方にも変化が起こっています。「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」を強化することにより「生きる力」を涵養することが三重大学の教育目標ですが、このことをこれまで以上に明確にする必要があります。「生きる力」の涵養とは「自立した大人を育てるための教育」と言い換えることができるでしょう。「自分という人間は何者であって、どこから来て、どこへ行こうとしているのか?」の問いにどう答えるかを考えなければなりません。そして、「周囲の環境を正しく理解し、その中から将来を的確にシミュレートし、自己の目標の実現を最大限に図ろうとする能力」を他人と良好な関係を保ちつつ身につける努力を惜しんではなりません。研究についても同じことが言えるでしょう。基礎研究、応用研究ともに自らの研究の位置づけを明確にし、社会にどのように貢献しうるかを常に考えておく必要があると思います。

 卒業後は社会に出る人、大学院に進学する人、さまざまな進路がみなさんの前にあります。いずれの道を歩むにしても、この三重大学が、みなさんの母校です。今日は少しだけ時間を作って、大学で学んだこと、出会った友人のこと、楽しかったこと、苦しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったことを振り返り、この感慨を、いつまでも記憶に止めておいて欲しいと願っています。そして、この記憶が皆さんにとって一生の宝となるものと確信しています。このことは母校や同窓会を大切に思い、後輩を暖かく見守る卒業生として成長を続けることに繋がるでしょう。

 サムエル・ウルソンが86歳の時にかいた「青春」という詩があります。その中の一節に「青春とは人生のある時期をさすのではなく、心のあり方のことだ。
それは単に紅顔の面持ち、紅い唇、しなやかな肢体などを言うのではない。青春とは、強固な意志、豊かな想像力、激しい情熱を指し、臆病を捨て去る果敢な勇気、安易さを退け冒険を求める飢えた心を言う。人は歳を重ねるから老いるのではなく、理想を失うときに老いるのである」とあります。さらに、「人はその信念に比例して若く 疑惑と共に老いる。人はその自信に比例して若く 恐怖と共に老いる。人はその希望に比例して若く 絶望と共に老いる。」と続きます。若者の持つ力強さをいかんなく発揮し、現代日本社会の閉塞感を打ち破るべく行動してください。

 現在、日本はアジア諸国を中心に多くの留学生を受け入れ、国際交流を活発に展開しています。経済の市場は国内だけでなく海外での比重が増大してきている中、今やこの流れを止めることはできません。しかし、残念なことに、日本の若者が海外を目指す比率が低下しています。他のどの国に比べても安全で便利で住みやすい日本であることは間違いありません。そんな所を離れたくないとの気持ちもよく分かりますが、外国に行ってはじめてそのことが実感でき、その重要性が理解できるのです。何か新しいものに挑戦するときには不安をすべて払拭することは不可能です。それを乗り越える勇気を持ってください。それがグローバル世界で自らのアイデンティティーを確立し、活躍の場を拡げることにつながるはずです。
 皆さんはこれまで学校や大学という恵まれた環境の中で学問をし、多くの知識を獲得してきましたが、それらは全てこれからの人生で活かすためのものです。社会で生活をするとき、ときとして予想も出来ない事態が発生したり、社会の激変に遭遇することもあります。そのような場面に出会ったときのために、これまで努力して「学びの習慣」を身につけてきたのです。どのようなときにも「学ぶ」ことを忘れずに、社会でたくましく生きることを実践してください。そして社会人として、世界の平和を願い、地球を大事にし、人を思いやる人でいてください。いつのときも法を守り、社会に貢献し、人類の福祉に思慮する人でいてください。また、科学に興味を失わず、学問への志を持ち続け、自らの体と心の健康に気を配りながら、これからの人生を大切に生きていってほしいと願っています。人類の文化や文明のあらゆる分野の歴史に、新しい1ページを加えていくのは、今日ここで三重大学の卒業式を迎えられたみなさんであることを確信しています。