- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

2010年を振り返る

 早くも師走を迎えました。あっという間の1年間でした。子どもの頃は早く大人になりたい、学生時代は早く職業人として自立したい、駆け出しの医師の頃は早く良医になりたいと願ったものでした。しかし、60歳を過ぎると時間はゆっくりと流れてほしい、この1年をじっくりと過ごしたいとの思いが強くなりますが、その思いとは反対に急流の中に翻弄されているのではとの感じが強くなる今日この頃です。

 この1年を振り返ります。
 教職員・学生が一体となっての持続可能な社会の構築への取り組みが評価されたことは朗報でした。6月には「第8回日本環境経営大賞」環境経営部門の最優秀賞である「環境経営パール大賞」を受賞、11月にはエコ大学ランキング第1位に評価されました。「世界一の環境先進大学を目指して」を目標に、環境教育プログラムによる環境人財の育成、アジア太平洋環境コンソーシアムの構築、環境ISO学生委員会の活動などが高く評価された結果で、法人化直後からの地道な努力が報われました。今後、環境整備を一層充実するためにカーボンフリー大学やスマートキャンパス構想を提案しました。そのために7月にはカーボンフリー大学推進室を立ち上げ、これまでの環境ISO推進室とともに環境政策推進の中核として機能させることにしました。
 名古屋で開催されたCOP10のパートナーシップ事業としてのCOP10 in 三重 も注目されました。アジアを中心として6カ国から多くの子どもや青年が伊勢湾や三重の里山で実習をしながら環境について話し合いました。最後に参加者の感想を聞きましたが、輝いた目でこれからの取り組みを真剣に語ってくれました。大きな成果があったと確信しました。これらの牽引役を務めてくれた朴恵淑学長補佐の超人的な努力には敬意を表します。
 電気推進機能を有する環境に優しい三重大学練習船「勢水丸」がシップ・オブ・ザ・イヤー2009部門賞に選ばれたのも嬉しい出来事でした。船長はじめ乗組員の取り組みの賜と感謝します。

 南アフリカで開催されたFIFAワールドカップでの日本チームの活躍は見事でした。多くの人が寝不足になりながらも日本チームに声援を送りました。その活躍を裏方で支えたのが教育学部の杉田正明准教授でした。高地(低酸素)トレーニングの専門家としてチームに帯同し、選手の筋力アップや耐久性の向上に大きく貢献しました。そのことが岡田監督や選手達に深く感謝され、今回の躍進に繋がったと評価されていることが報道され、三重大学の大きな情報発信となりました。

 防災・減災コーディネーター養成のための「美し国おこし・三重さきもり塾」が4月に開塾しました。近い将来に東海、東南海、南海地震が予想される中、地域社会防災・減災システムの構築は地域住民、行政が一体となったシステム作りが重要です。そのために大きく貢献してくれる塾だと思っています。塾生達がこのシステム作りの中核となってくれるはずです。副学長の畑中塾長の活躍を期待しています。

 その他、心に止まることはたくさんあります。その僅かしか記すことができないことをお詫びします。

 今年の海外出張の感想を述べておきます。ベルリンの在ドイツ大使館で三重大学、三重県、JA三重共同で三重物産展を開催しました。この開催に当たっては学長補佐の西村訓弘教授の努力と鈴木宏治理事の友人である神余隆弘ドイツ特命全権大使の好意によるものでした。食事の時の大使の言葉が胸に刺さりました。「ヨーロッパで日本の存在感が薄れ、普通の国になってきている。」公職の大使とは違って夫人の言葉はさらに辛辣です。「今回の尖閣列島事件では各国の大使夫人などからお気の毒ですねとしきりに同情されました。寂しいやら情けないやら。」しかし、「ヨーロッパの人の多くが日本の文化には興味を抱き、高い敬意を表している。」とのことでした。政治や経済の落ち込みが激しい中、日本文化の情報発信に活路を見いださなければならないでしょう。大学の果たす役割には大きいものがあります。

 ベルリンからUAEのドバイ、シャルジャに向かいました。11月の初めというのに何と暑いことか。外を歩いている人は疎らで、まして仕事をしている人はほとんど見かけません。クーラーが強烈に効いている巨大なビル群の中で仕事や遊び、ショッピングをしているようです。ふんだんに石油を使っての電力の供給は十分とのこと。ちなみにガソリンはハイオクで1リッター30円、日本の5分の1です。自動車が溢れ交通渋滞と大気汚染と暑さで息苦しく、夕方や夜でも暑い。この砂上の楼閣は石油の枯渇とともに砂に消え去る予感ですが、この国の人はそれを恐れているようにはみえません。全てはアラーの神の思し召しで、「いつでも遊牧民に返ればよいさ」と思って生活をしているのでは?

 ドバイの金儲け主義は徹底しています。外国からのお客さんには全てが高価格です。ショッピングモールには高級ブランド店が旅行客を待ちかまえています。ドバイ発の深夜便が世界に向けて目白押しのため、深夜にもかかわらず空港は大混雑。夜中の便に搭乗するため、ホテルには余分に1泊分を支払わなければなりません。空港では夜食を取ることになり、レストランは満席。搭乗すると満腹のため、睡魔に負けて食事はパスすることになります。航空会社も空港も収益が上がることでしょう。この徹底振りには感心します。やるなら徹底せよの言葉は生きています。
 一方、隣国シャルジャ(三重大学と連携をしているのはシャルジャ大学)は教育に力を注いでいるようです。集まった資金を大学建 設に投資しています。指導層のほとんどを外国からの人材に依存している現状の打破をねらっています。20年後を見据えた政策です。今は苦しくとも将来に繋がる国造りが求められています。大学も同じだと思っています。

 2011年の飛躍のために今年を振り返りましょう。