- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

危機に瀕する大学

 来年度予算の概算要求で各省10%削減が求められているのはご存じのとおりです。文部科学省の大学関係の教育、研究に関する予算もしかりです。10%削減した一部を「元気な日本復活特別枠」を設定して重点的に配分することになっています。この配分は政策コンテストを実施して優先順位をつけ、その結果をもとに措置するとされています。高等教育の重要性は判っていても、財源不足を理由に他の経済政策と同じ土俵で論じられることになるでしょう。即効性のなる政策課題がよく見え、20年後の成果である教育、研究課題は色あせて見えるかもしれません。この国をどの方向に導くかの政治家の見識が問われることになるのでしょう。

 国立大学では教育研究の基盤的経費を削減して特別枠としてコンテストに参加する項目として授業料免除枠の拡大、地域医療を担う国立大学附属病院の教育研究機能の充実強化、科学研究費等による若手研究人材の養成、支援経費が含まれています。
もし、特別枠要望が認められなければ、奨学金制度の維持が困難となり、経済的に困難な学生の修学ができなくなります。地域医療に対する貢献も縮小せざるをえなくなるでしょう。また、科学研究費も大幅削減となりますので特に若手研究者の研究が難しくなります。本年の科学研究費は2,000億円でしたが、来年度の概算要求は1,750億円で、特別枠で350億円を要望しています。この350億円が認められなければ、12,5%の削減となり、三重大学などの地域圏大学では研究の継続が極めて困難となる学部や講座が続出する可能性があります。大学全体の基盤的経費も大幅削減となるでしょうから、大学としての支援そのものも縮小せざるをえません。現状の大学としての存亡の危機としてとらえなければなりません。

 大学人として声を大にして窮状を訴えなければなりませんし、この現状を国民に理解を求め、共に戦ってもらわなければなりません。そのための行動を起こさなければなりません。あらゆる機会を捉えて、地域の人に知ってもらわなければなりません。法人化後、三重大学は地域圏大学として地域の中小企業との連携を強化し、実績を上げ、地域に貢献してきました。県や市町などの行政機関との協力は他県がうらやむほどの関係を築いてきました。また、知の拠点としても公開講座などを通して文化的に地域住民に多くの情報を発信してきました。このような大学の活動が住民の皆さんに十分に理解されてはいないかもしれません。大学としてもマスメディアなどで広報活動に努めますが、一人一人がその意識で地域の人と接することが大切です。

 先日UAE(アラブ首長国連邦)を訪れる機会がありました。シャルジャ大学と三重大学との包括連携協定締結のためです。シャルジャはUAEの中でアブダビ、ドバイについで3番目に大きな王国で、政策的にはドバイと対照的です。ドバイが経済一辺倒なのに対して、シャルジャはそれに批判的で教育を重視し、世界より優秀な教員を集め、大学の充実を図っています。20年後、UAEの中で,この両王国がどのような位置づけになっているか注目に値します。三重大学の選択が間違っていなかったことが示されるはずです。

 19世紀初頭のドイツ、20世紀のアメリカが近代国家の興隆に教育を重視し、成功しました。資源に乏しいわが国がリーマンショック後の日本の再建を、20年の視野でもって「人財」の養成に托さなければならないと考えます。100年の計と言いたいところですが、そんな先を今の人は見ることができません。20年先でその後を予測することになります。まずは20年後のために今何をすべきかを考えなければなりません。今手に入れるべきものは目の前の豊かさを示すお金や物ではなく、将来への希望ではないでしょうか。