- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

学生に伝えておきたいこと

   大学生や大学院生として「学びの習慣」に一層磨きをかけ、着実に研究を遂行し、大きな成果をあげるために参考になればと思って、今年の入学式で話したことの要旨を記します。

   一つは自信についてです。自信の有無がいかに人々の行動や成績を左右しうるかは、数々の実証的研究によって証明されています。「意志決定能力は実践を通して磨かれるスキルであり、懸命にものごとに取り組むほど、人はさらにこの能力が高まる」と信じている人は自らチャレンジングな目標を掲げ続け、優れた課題解決の戦略を駆使して、クラス、サークル、研究室はもちろん大学全体の活動力を高めるでしょう。自信を持ち、どんな難しい課題であっても、それに対処する能力があると信じることは、継続的な努力を促し、持続するために不可欠なものです。自信をつけるということは「成功することができる」という信念を持たなければなりません。

   次は真の情報交換についてです。情報ネットワークへの依存度が益々高くなってきています。ネット上のつながりが自動的に大きな信頼を生むのだと信じたい誘惑に駆られます。しかし、携帯電話やパソコンのキーをたたくだけで、よりよい人間関係を築くことはできません。バーチャルな信頼関係などというものはありません。人間が人間として進化した基盤は信頼のできるコミュニティーを形成したことにあります。顔を合わせてコミュニケーションを図り、情報交換や議論をすることが、真の感性や知識の伝達となり、学びや研究を大いに進めることにつながることを認識して下さい。技術革新の利点と人付き合いの社会規範とを結びつけたバランスが重要です。

   独創性と実行力も大切です。江戸時代にほぼ60年周期で爆発的ブームを巻き起こしたのが伊勢への「おかげ参り」です。およそ200年前の1830年には当時の日本の総人口の6分の1以上の人々が半年間で伊勢の神宮を訪れたとの記録もあります。集客力は現在の万博をしのぐものです。歩くことが主な移動手段であった時代のことです。この驚異的な旅行ブームを仕掛け、それを可能にしたのは伊勢人の独創的な発想と行動力です。宅配便、旅行クーポン券、団体割引や宿の予約システムなど現代の旅行代理店の原型を生み出しました。素晴らしい独創性を有している三重県の特性を再び三重大学で花を咲かせて下さい。それを教育、研究で生かす努力を重ねれば、「地域のイノベーション」を推進できる「人財」が養成でき、「三重大は良い大学院生を輩出するなー」と社会から高く評価されるようになるでしょう。

   他国の研究者と積極的に交流をして下さい。現在、日本はアジア諸国から多くの留学生を受け入れ、国際交流を活発に展開していますが、日本の若者が海外を目指す比率が低下しています。日本人の留学生数は2003年の約11万3600人をピークに徐々に減少し、2007年には10万4000人と1万人近く少なくなってきています。減少の理由は明確ではありませんが、少子化や不景気による経済的理由に加え、若者の内向き志向などが影響していると考えられます。
海外での発表や留学を前向きに考えて下さい。自らの立つ位置が明確になり、学問や研究への意欲が高揚するでしょう。三重大学はみなさんを支えますので、海外に飛躍してください。
過去を振り返ることは生産的でないとの意見があります。しかし、現代の科学技術は、過去の多くの失敗と成功の蓄積の上に築き上げられてきています。これらを改めて検証し、その結果を進歩の原動力にすることは必要でしょう。賢い生き物は決して失敗を繰り返さないようにみえます。過去をしっかり見直していないため、時には同じ過ちを繰り返している政治や経済の世界を見るにつけ、科学技術は同じことをしてはならないと痛切に感じます。過去から得る教訓で、未来を拓く展望を持つことが求められます。
大学や大学院での皆さんの生活が楽しく、充実したものであることを信じています。将来へつながっていく稔り多い成果を期待しています。