- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

歩みを止めるな

 先日、ベトナムのハノイ市を訪問した。日本―ベトナムの学長会議に出席するためである。空港よりホテルまでのバスはバイクと自転車の間を縫うようにゆっくりと走る。バイクと自転車が車の間をすり抜けていくとも言える。ぶつかりそうになるが両者が間一髪で回避している。あうんの呼吸を心得ている。市街地に入るともっと大変である。これに歩行者が加わる。交差点にはほとんど信号が無く、当然のことながら横断歩道もない。まさに、車とバイクと自転車と歩行者のマジック競演ショーである。

 滞在しているホテルの前に小学校があり、朝の散歩中に小学生の登校風景に出会った。子供達の道路の横断は圧巻である。それほどのスピードではないが、ほとんど間隔がないほど激しく行き交いバイク、自転車、車の間を縫うように道を横切るため、子供達は左右を見ながら、ゆっくりとあわてることなく小刻みに前に進むのである。決して急がないし止まらないし、恐がりもせず悠然と歩み続け、渡りきる。その後は、一目散に学校に駆け込んでいく。拍手喝采である。

 成長する「人財」は、立ち止まらないし、逃避もしない。迷いは誰の上にも訪れるであろう。しかし、伸びる人は、迷いを言い訳に、自らの歩みを止めない。現状から逃避しても安住できる逃げ場はなく、苦しみを先送りするだけであることを知っている。そして、常に成果を求めて、必要なエネルギーと集中力を発揮するように務める。そこにはストレスや緊張感が充ち満ちているが、それを心地よいと感じることも必要である。訓練を繰り返すことにより、それは達成できる。

 誰でも一時的に歩みを止めたために、苦しい思いを経験した人は少なくないだろう。誰にでも思い当たる例をあげる。教科書や論文を読んだり、文章を書いたりすることを何かの都合で2―3週間ほど休むことがある。さあー、それからが大変である。日本の雑誌はまだ良いが、英文ジャーナルは開いても、しばらくは眼と頭が共同作業を始めてくれない。ネットワークがつながるまでかなりの我慢が必要だ。英文で論文を書くときはもっと苦労する。ここで切れると1ヶ月、3ヶ月延ばしとなり、延ばせば延ばすほど書けなくなる。どんなに短くても良いから、毎日、毎日読んだり書いたりすることを怠ってはならない。少しずつでよいから、歩み続けなければならない。急いでもいけないし、左右を確認しながら進もう。それが目的を遂げるために必要である。

 ワクワクし、充実感のある教育や研究の課題は自分の直ぐ傍にあるはずだ。自らの傍にある課題に取り組むかどうかに、愚痴も、迷いの言も、弱音もいらない。ひたすら自力本願で、進まなければならない。歩みを止めず、目の前にある課題に集中し、最高の成果を求めるのだ。迷いが心をさいなむことは人間である以上当然である。しかし、どんな時も、「決して立ち止まらないこと、決して逃げ出さないこと」を忘れなければ、どんな人にも成長が待っている。

 2010年も皆さんが歩みを止めずに着実に前進し、多くの成果を挙げることを祈っています。