- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

年頭に際して

 2010年が明けました。皆様おめでとうございます。
 本年3月で法人化後6年が経過し、第1期の中期目標・計画期間が終わります。評価についてはいくつかの改善点の指摘はありましたが、全般的には良好でした。そして4月よりは第2期中期がはじまり、第1期の成果を踏まえて新しい取り組みが求められます。具体的な目標・計画は4月以降にお示ししますが、まずは教職員全員が大学人としての意識を今以上に高めなければなりません。

 大学でなされている教育・研究の社会との連携が強く求められています。現代科学のみなもとは古代ギリシャの哲学であることを考えると、古代ギリシャ時代への学問研究の構造的回帰をするべき時です。哲人ソクラテスは多くの若者達とアグラ(広場)で酒を酌み交わしながら学問を語り合ったといわれています。それがまさに市民との情報交換となり、学問の面白さや重要性を共有することができ、飛躍的な学問の発展につながりました。そのことは大学の教職員のアカウンタビリティー(説明責任)の重要性をわれわれに教えてくれます。社会への説明や知識の共有が学問研究に含まれることを認識しなければなりません。

 近代の大学の礎となったベルリン大学がフンボルトらにより創設されて200年になります。設立時の大学の理念は「孤独と自由」と「研究と教育(教授)の統一」でした。「孤独と自由」は学校や実践的な知識を教えるところから大学を切り離し、自由に研究することを推進し、そこに国家が介入しないとしています。その一方で,大学の持続的発展を促すことが国家の役割であるといっています。そして、学問を研究することで人格が形成され、「人財」の育成につながるとしています。その後、「孤独と自由」の一面のみが強調されすぎたために社会と隔絶した象牙の塔と行き過ぎた大学の自治が作り上げられたことはご承知の通りです。しかし、学問の中では何にも縛られない自由な研究は科学の発展には不可欠です。自由な研究と先に述べた社会との連携や説明責任が整合性の上に成り立たないはずはありません。自由な基礎研究が直ちに応用研究に結びつくわけではありません。基礎研究の意義と応用研究の重要性のバランスを取りながら大学は進歩しなければなりません。
 「研究と教育の統一」は現在でも生きていると思います。豊富な経験や知識を有しているが、それに偏りがみられ、行動力や活力に低下がみられる教授と未熟だが偏っておらず活力のある学生が,一緒になって課題に取り組むことで,相乗効果を醸成することが大学の使命としています。大学がユニバーサル化している現在では、学部教育でこのことを実現するには困難を伴うでしょうが、大学院教育では是非とも可能にして欲しいと願っています。

 今年は寅年です。寅は十二支で最も慣用句の多い動物です。「虎は千里往って、千里還る」「寅に翼」「虎穴に入らずんば虎子を得ず」など刺激的で威勢の良い言葉が多くあります。2010年は前進あるのみです。しかし、「張り子の寅」「虎の威を借りる」などの戒めの言葉があることに注意し、歩みを止めないようにしましょう。

 三重大学の佳き伝統は教職員、学生が一体となることです。この強い結束力で三重大学を良くしていこうではありませんか。