- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

事業仕分けと三重大学

 国民の注目を大いに集めた行政刷新会議による事業仕分けでありました。一般会計予算の中の447事業を選び仕分けの対象としました。一般会計は、基本的には国及び地方公共団体の消防、福祉や教育など国民・住民に広く行われる事業で、国会でその予算を審議されているものです。本来、透明性があり、無駄の少ない予算であるはずです。
 一方、特別会計予算は、年金や社会資本整備など特定の目的のために、特定の人・所からお金を徴収し、一般会計予算とは別に 会計処理されるもので、国の場合は、各省庁別で管理されており、国会ではその予算審議が基本的にされません。当然、チェックが甘くなり、不透明となる可能性が高くなります。そのため、2003年、時の財務大臣「塩じい」こと塩川正十郎氏が、「母屋(一般会計)がお粥で辛抱しているのに、離れ(特別会計)ではすき焼きを食べている」と表現したことは今でも語りぐさとなっています。

 本来ならば特別会計の事業仕分けをしなければならないはずなのに、財務省主導で税収の大幅な減による財源不足を補うという観点のみで行われた作業としかみえないのは残念です。この国のあるべき姿や将来像を示すことが新しい政権では最優先事項でしょう。それに基づき財源論を論じるのが筋道であるのは誰もが感じていることです。

 今回の「事業仕分け」で、大学の予算についても多くの事業が厳しく抑制される事となりました。日本の高等教育への公財政支出(対GDP比)は、OECD加盟国中最下位であり、高等教育費伸び率も日本が唯一のマイナス(△2.6%)であります。このため、大学関係者はこのような先進諸国中最低レベルの公的投資の水準や世界でも特に重い家計における教育費の負担といった問題の是正を訴え続けてきましたが、今回の事業仕分けは国立大学に対して更に厳しい状況を突きつけました。

 もし「事業仕分け」の通りに予算が組まれると三重大学も極めて大きな影響を受けます。教育や研究への助成は3億円超の減額となると試算されます。それにより教育・研究環境の悪化が懸念されます。大学の運営の基盤的経費の中心となる運営費は年々削減されており、教育・研究のために必要な経費を補うために競争的資金や外部資金の獲得を行わざるを得ない状況にあります。これらの資金も大幅に削減され、大学の教育・研究環境に深刻な影響を及ぼします。
 次に地域圏大学として果たすべき役割が低下します。本学は、三重県をはじめとした地域への教育・研究面で貢献してきました。しかし、事業仕分けによる地域産学官連携事業予算の廃止は、教職員定数や運営費の減少を来します。それにより、地域イノベーションを推進できる「人財」養成に積極的に取り組んでいる体制の維持が困難となります。中小企業との共同研究数は全国第3位(平成19年度)、全国大学の地域貢献度ランキング東海地方第1位(平成21年度)、過去5年間で自治体及び企業との連携協定数30件などの地域貢献が極めて難しい状況に追い込まれることになります。
 三重県が進める地域医療再生計画の中核病院として、地域の医療を支える県内の病院へ医師を派遣するほか、人材の確保に取り組むとともに、現在取り組んでいる救急医療や小児医療、周産期医療体制の強化ができなくなるでしょう。本年度よりスタートした防災コーディネーター養成のための「三重さきもり塾」も同様です。

 資源の乏しい我が国においては、「人財」育成のための教育は、国家形成の基盤です。そのために大学の果たす役割は極めて重要であります。これまでは、少ない予算の中で教職員の懸命な努力によりその役割を果たしてきたことが、今日の日本の学術研究、科学技術の進展やそれを支える人財を育成してきたと自負しています。
 しかしながら、今回の事業仕分けは、将来の日本のビジョンを示さないまま、予算の削減の為に拙速に行われ、教育・研究予算についての十分な議論のない作業となっていると判断します。特に、国立大学に対しては国家への使命の重要性を無視した評価であると考えます。再検討の上、平成22年度予算に正しい評価で反映されること切望します。