- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

「知は力なり」

 「知は力なり」は16世紀イギリスの哲学者フランシス・ベーコンの言葉です。自然の法則を知り、経験をたくさん積み、それを使って自然と調和すれば、人間の世界は豊かになるとの考えでしょう。三重大学の基本的目標も人と自然の調和、共生の中で独自性豊かな教育・研究成果を生み出すことです。まさに知がその根源です。

 組織も同じです。一人ひとりが持つ「知識」がその組織にとって最大の財産であることをよく認識しなければなりません。「人財」であることはこれまで繰り返し発信してきました。人の力が強くならない限り、組織力は向上しません。個人個人が持つ成功体験や失敗例といった知識や経験を集め、組織でそれを活用する仕組みを作り上げることが重要でしょう。これが「ナレッジ・マネジメント」です。これを実践することは容易ではありません。同じ間違いを繰り返さないと納得しないのが人間です。先輩から何度も教えを受けながら、同じような間違いを犯したことをほとんどの人が経験しているはずです。自らの失敗に基づく反省は切実であり、そこから成長が生まれますが、それでは組織としての発展は遅く、競争に勝てないでしょう。

 大学は法人化後苦境にあります。運営費交付金の減額のため教職員の削減が求められています。目先の対応だけで安易に人員を削減しようものなら、大学は最大の資産である教職員の知を失ってしまうことになります。10年もすれば、教職員の数の帳尻は合っているが中身は何もないといわれる大学だらけになる可能性だってあります。苦境に負けない“強い”大学を維持するためには、ナレッジ・マネジメントを実践し、大学の持っている知の力を有効に活用しなければなりません。

 それでは「ナレッジ・マネジメント」の本質とは? 多くの教職員と話をする機会があり、それぞれが素晴らしい実績を持っていることがわかりましたが、それが大学の力として生かされているかと聞かれるとはなはだ疑問です。個々の力を組織として活用し、大学の評価を上げることが「ナレッジ・マネジメント」と考えます。教員相互の情報交換が基盤となります。そのような場は存在しますが、われわれの多くが得意ではありません。直ぐにカタツムリになり、角もやりも頭もひっこめたまま殻の中です。どなたかこのカタツムリを上手に料理してくれる人はいませんか。隠れたところに料理の鉄人はいるものです。われこそはと思う人は是非とも手を挙げてください。

 ある人が当たり前だと思っている方法論が、別の領域では実は重要なナレッジとなったりしたことを誰もが経験しているはずです。そして、医工連携、生工連携、文理融合など学部間での連携を成功させたいと切望しています。

 情報システムが整備されればナレッジ・マネジメントができるという“誤解”もあります。教員はそんなことをしなくても自分の教育や研究はできるため、積極的にはなれないのでしょう。多くの教職員を集めてナレッジの収集や活用方法を協議する会議を定期的に開いても、それを肯定するよりも否定的な意見が多くでます。それでもナレッジ・マネジメントは必要です。自慢大会だと思って続けることが教育や研究のノウハウなどを積極的に共有する雰囲気を大学内に生み出すはずです。

 情報システムの進化は生きた情報の交換を阻害している可能性だってあります。学会、大学、講座、教室内での生の議論を活発にすることが若い人たちを引きつける魅力となることも忘れないでください。