- 学長通信 -

三重大学長ブログです。

「三翠の 三重大こころを 人とはば 四つの力と エコの風」

 これを私からの最初のメッセージとします。ご存じの通り古事記伝44巻を著した伊勢松阪の国学者本居宣長の「しきしまの やまと心を 人とはば 朝日ににほふ 山桜花」をもじった作った歌ですが、三翠は三重大学のよい枕詞になると思います。この歌は軍国主義に利用された悲しい歴史の中にありましたが、本来は日本人の心とは、朝日に照り輝く山桜の美しさを知り、その麗しさに感動する心である、言い換えればものの哀れを知る心と解釈されます。

 三重大学の心は「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」とそれに裏付けられた「生きる力」を涵養することです。教師として学生に、また先輩として後輩に伝えたいことは専門的な知識や技術ですが、それ以上に本当に会得してほしいものは「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」です。「鋭い観察力」「強靱な思考力」「的確な判断力」ということもできるでしょう。そしてこれらをもとにして世の中を力強く生き抜いてほしいと願っていますが、このことは簡単に伝えられるものではありません。最も難しいことですが、われわれはより高い教育を目指し、それを実行することにより「幅広い教養の基盤に立った高度な専門知識や技術を有し、社会に積極的に貢献できる人財」を養成するという本学の教育目標を達成することになります。

 蘭学者緒方洪庵は適塾を開き、日本全土から集まった門人に蘭学・医学を教え、幕末から明治にかけての日本の近代化に貢献した、大村益次郎、福澤諭吉、長輿専斎、高松凌雲ら多くの「人財」を育てました。医学を教える塾でしたが、塾生たちにとって外国よりもたらされる医学だけではない目新しい知識、技術には驚きの連続だったことでしょう。彼らの勉強ぶりのすさまじさは、福沢諭吉をして「凡そ勉強ということについてはこのうえにしようもないほどに勉強した」と述懐しているほどです。それに加えての自由闊達さが、感受性豊かな若者の中に「感じる力」「考える力」「コミュニケーション力」そして「生きる力」を育み、幕末から明治初期に各分野で活躍する多様な「人財」を数多く輩出したのでしょう。

 「エコの風」の意味するところは環境先進大学です。これまでの成果に加えて、キャンパスパークや三重大博物館構想を実現して大学構内に市民に開かれた地域の「知の拠点」を創成したいと願っています。初春には銀色に輝く翠の波を、初夏には新緑に映える翠の木々を、初秋には天高く澄み切った翠の空を、初冬にはツワブキの濃い翠の葉を眺め、また感じながら校内の思索の道、感性の道を歩き、交流の広場を教職員、学生、市民が一体となって楽しげに語らう光景を夢見ています。それが、われわれが目指す地域に根付いた大学の基盤となってくれるはずです。

 「地域のイノベーションを推進できる人財の育成」の具体例を三重にみることができます。それは江戸時代にほぼ60年周期で爆発的ブームを巻き起こしたのが伊勢神宮への「おかげ参り」です。1830年には当時の日本の総人口の6分の1以上の人々が半年間で伊勢神宮を訪れたとの記録もあります。集客力は現在の万博をしのぐものです。歩くことが主な移動手段であった200年以上も前のことです。この驚異的な旅行ブームを仕掛け、それを可能にしたのは伊勢人の独創的な発想と行動力です。宅配便、旅行クーポン券、団体割引や宿の予約システムなど現代の旅行代理店の原型を生み出し、全国に発信しました。
地域イノベーションそのものだと思っています。

 「三重大は良い学生、大学院生を輩出するなあー」と評価されるように、教職員学生が一丸となって積極的に意識改革に取り組みましょう。

追記
薄い頭髪、ひげ面「禿髭(とくひん)学長」としました。
学長イラスト