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地域づくりの経営学 ―企業と社会のサステナビリティ―

2022.3.24

インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生

今回は人文学部法律経済学科の青木雅生(あおき まさお)教授にインタビュー取材を行いました。今回のインタビュアーは、みえみえ学生広報室員(人文学部3年 平井夕季、人文学部3年 山内梨湖)です。

青木先生

-はじめに、先生の専門分野・研究内容について教えてください。

青木経営学が専門で、講義は経営学総論を担当しています。持続可能な経営、魅力ある企業づくりを理論的にも実践的にも解明・支援していくことが主な研究内容です。CSR(企業の社会的責任)やSDGsが言われる世の中で、企業は社会とともにサステナブル(持続可能)である必要があります。特に地域経済において、中小企業はその大きな担い手ではありますが常に厳しい状態にあります。そうした企業が地域とともに発展、持続可能な会社になることが大切だと考えています。

-研究を始めたきっかけを教えてください。

青木学生時代に経営学を専攻しており、もう少し世の中がよくなってほしいという素朴な思いもあって研究者の道に進んでいる部分があります。大学院では企業が新しい商品を開発するという研究開発のマネジメントについて研究をしていました。大学院での研究がひと段落したところで、中小企業の経営者さんの団体とお付き合いするようになりました。その中で、地域経済の大切さや中小企業の発展・存続を一緒に考えていくことは地域経済、地域社会をよくすることであると感じ、研究をすすめるようになりました。20年近く様々な経営者さんとお付き合いしています。そこから地域経済と企業の社会に果たす責任を考えていくうちに、CSRやSDGsの研究にもつながっています。

-研究の中で面白いと感じることはなんですか。

青木経営学を学ぶということに関しては、一人の人間として将来どのように成長していきたいか、どのように社会に貢献したいのかを考えることと、会社の経営戦略や社会に果たす責任を考えることが比喩的につながります。そのため、企業の成長と人の成長をパラレルに考えることができるところが面白いと感じます。
地域経済と中小企業の研究に関しては、身近に感じ手ごたえを感じることです。
大企業の経営や問題について考えると、すごく遠いものに感じてしまうと思います。一方で、地域経済とのかかわりを考えることで、自分が住んでいる町を我が事として考えることができます。さらには自分たちも何かできるのではという手ごたえ感を持つことができます。私自身も研究の中や経営者さんとの話し合いの中で、手ごたえを感じることがあります。

-青木先生はSDGsについても取り組みを行っていることを拝見したのですが、実際の取り組み内容を教えてください。

青木先生

青木企業側の観点からと地域づくりの観点、2つの観点からの取り組みを行っています。企業側からは持続可能なサステナブルな経営を行っていくために新しい価値を生み出すこと、イノベーションを起こすことが大切になってきます。そのためには、ミッションやビジョンが必要であるとともに、何かをする時に「なぜそれをするのか」を重視する経営スタイルを追い求める必要があると考えています。自社の社会的な存在意義を明確にする「パーパス経営」です。さらに、内側の体系を見たときにも、従業員と共に新しい価値創造を行うことも重要になってくるため、やりがいを感じることができるような職場環境づくりなども行い、お客様に対しても、従業員に対しても社会の役割を果たしていくような魅力ある企業のあり方が大切になってくると考えています。
その延長線上に地域づくりの経営、地域をマネジメントするということも重要であると考えられます。私の研究では企業などの営利組織だけでなく、NPOや協同組合などの非営利組織も対象としています。組織であればマネジメントも必要だということを鑑みると、営利・非営利関係なく枠を超えて、組織同士が連携することで公益を考え地域づくりを一体となって行っていくことが大切だと考えています。そういった取り組みが、例えば過疎地の地域活性化に繋がっていくはずです。つまり、企業と一緒になった地域づくりが大切であり、これは自然とSDGs、持続可能な開発目標に含まれているところです。SDGsと聞くとグローバルなものだと考えがちですが、実際は地域という身近なものにも関係のある話です。

三重大学は環境についての取り組みを先進的に行っていますが、SDGsのいう持続可能な開発としては、経済・社会・環境の3側面を調和させることが重要であると考えられています。この3側面が相互に関連し合って初めて社会がよくなっていくことを忘れてはいけないと思います。SDGsの17のゴールの理解がバラバラに進んでいるところが課題であると考えているので、全てが繋がっているという認識を持ち、経営学の視点から環境の面だけでなく、経済・社会の面にも積極的に目を向けていく役割も担っていきたいです。

-SDGsについて一つ一つの項目を分けて考えるのではなく、全てが関わり合うことが重要であることが分かりました。では、具体的には経済・社会面からはどのようなアプロ―チが可能なのでしょうか。

青木経済面からお話しすると、まず本来の企業のあるべき姿を考える必要があると思います。本来の企業は、生活に必要な財・サービスを提供する社会的な経済事業組織であると定義づけることができます。つまり、本来の企業であれば地球環境や人々の身体への配慮は当たり前にやらなければならないことであるということができます。SDGsに取り組むという意識よりも本来の企業のあるべき姿を意識することで、マイナスをゼロに近づけるところに留まるのではなく、マイナスをプラスに変えるほどの価値創造をするという社会的責任感が芽生え、自ずとSDGsの考え方へと繋がっていくと考えています。社会の面からは、モノづくりが活発だといわれていた日本でしたが、最近は元気がないといわれてしまっているという現状があります。そんな時こそ、第二次産業だけでなく、一次産業、三次産業も均等に発展させていくべきであると考えています。三重県には豊かな自然があり、林業・漁業・農業を推進していくには一番の場所であると思います。関わる全ての人々と共に三重県が主導となってSDGsについて社会面からの取り組みを行っていくべきであると考えます。

-様々な企業の方と対談なさっていたのを拝見したのですが、その中で印象に残っているお話を教えてください。

青木ここ数年では井村屋さんとの対談で印象に残っている話があります。SDGsに取り組むといっても急に何かをするというわけではありません。井村屋さんも歴史を振り返ると、「人々が持っている小豆を加工する」という役割を担ってきた、というところで、会社の利益のためでもあるけども、人々に役立つことで会社を存続させてきたという経緯があります。このことから、より多くの人に納得してもらえる新しい取り組みをしていくことが課題にはなってきますが、やはり企業の存続と地域がよくなることが結びついていることが大切になってくるという結論になりました。

-先ほどのお話にもあったように、実際にもSDGsのために何か特別なことをしているわけではないのですね。

青木その方がその企業らしいことができるという利点もあります。しかし、新しいことをはじめることは今ある顧客以外のニーズにも耳を傾ける機会にもなります。そこでやはり会社にできることを発見していくということも重要になってくるので、やってきたことと新しいことをどう組み合わせるかを考えていくことが課題になってくると思います。それで十分にイノベーションになると思います。

-青木先生の取組みにも使用されているツールの一つである「オープンデータカード"SDGsスクエア"<三重県版>」について教えてください。

カードを手に持ち説明する青木先生

青木まず、私が経営学を軸にしながらもう一つ取り組んでいることが、企業・行政・大学・NPOが連携する「産官学民」連携というものです。SDGsの17のゴールに即していえば「パートナーシップ」と関わるところです。企業・行政・大学・NPOはそれぞれが別の考え方、価値観を持っています。そのため、この違う考え方を連携させ組み合わせることによって新しい発想、アイデアが生まれるのではないか、という思いから「産官学民」連携を推進しています。その推進活動の中で、話し合うことができる場をつくることが重要であると考え、人口減少や環境問題についてなど三重の未来を学生と企業で考えるワークショップを企画しました。そこで用いたツールが「オープンデータカード"SDGsスクエア"<三重県版>」です。

机に並んだオープンデータカード

これは、三重県が発表している人口減少率や空き家率等の数値である「オープンデータ」をSDGsの目標課題17の項目ごとに2つずつ、計34個当てはめて考えることができるツールです。カードをもとに三重県の課題をどう捉えるかを話し合うことができ、遠く関係のない存在と考えられがちなSDGsを地域に結び付けることができます。これにより、SDGsを自分の町の問題として身近に捉え、主体的に地域のことを考える人材を増やすことに繋がると思っています。また、違う価値観の人と話し合うことで視野が広がり、新しい変化が生まれることも期待しています。知っているようで知らなかった地域課題を知り、学んだり、考えたり、解決したりする動力に繋がることが最も重要であると思います。

-今後どのような取り組みをしていきたいか教えていただきたいです。

青木先生(右)と学生(左)

青木これからも引き続き地域の中小企業やNPOの方々や行政の方々と私は経営学の視点からサステナブルな地域社会をつくっていくことは変わらずやっていきたいと思います。そのために大学として設置した地域拠点サテライトの中でやっている研究会を引き続き行っていきたいです。北勢サテライトで経営者さんと一緒になってやっている「北勢地域経営研究会」は、4月から大学が提供する場から、参加している経営者さんによる主体的な運営のしくみに変わり、自分たちが自分たちでつくり上げていく形なることがつい最近決まりまして、そこも引き続きやっていこうと考えています。
またこれまでも取り組んできたのですが、学生が地域の現場に入っていって一緒になって、そこの地域の課題、企業を経営学の観点から研究するという取り組みを引き続き行っていきたいと思っています。2021年度は、四日市の水沢地区の茶産業を取り上げ、現場の方に協力いただきました。10件近くのお茶の現場の方にお話を伺う機会を学生に提供していただき、それを共同論文にし、他の大学の学生と討論会を開きました。そうしたことを大学としても地域とのかかわりを強めていこうとするのをうまく利用して、地域の方とともに考えあう場を学生ともつくっていくことを今後取り組んでいきたいと思っています。

最後に私は地域イノベーション学研究科という大学院の担当教員も務めており、これまでもたくさんの社会人の方の研究を支援してきました。地域イノベーション学研究科では社会人の「リカレント」、「リスキリング」といわれるものと繋がっています。すなわち大学から見れば地域の人材がもう一度大学でレベルアップ・スキルアップしてもらい地域のためにがんばっていただく人材を増やすという試みをしていくことはとても重要なことです。私は大学院でそういった側面を取り組んできた部分もあるのでこれからもお手伝いできたらなと思います。


「オープンデータカード〝SDGsスクエア〟〈三重県版〉」のテストプレイについては以下の記事をご覧ください。
https://www.mie-u.ac.jp/news/topics/2021/12/sdgs-2.html


今回のインタビューの様子をYouTubeで公開しております。
こちらからご覧ください。




研究者情報


青木先生

人文学部 法律経済学科

教授 青木 雅生(Aoki,Masao)

専門分野:経営学

現在の研究課題:持続可能な企業の経営学、地域づくりの経営学

【参考】

人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/

教員紹介ページ(青木 雅生) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/1019.html