インタビュアー:みえみえ学生広報室の学生
今回は人文学部 文化学科の山田 雄司(やまだ ゆうじ)教授にインタビューを行いました。インタビュアーは、みえみえ学生広報室員(人文学部4年 森下琴心、人文学部1年 南部友輔)です。
※本記事は山田 雄司教授の研究見解に基づきみえみえ学生広報室員が作成しております
-はじめに、なぜ忍者の歴史や文化に興味を持たれたのか、きっかけを教えてください。
山田元々私は忍者を研究していたわけではなく、詳しかったわけでもありませんでした。1999年に三重大学に赴任し、怨霊や祟りの研究を専門にしてました。
-えっ!?
山田忍者の研究を始めたのは2012年からです。三重大学で文理連携・域学連携で総合的な研究を組織的に推進し、地域の課題解決・発信・文化の発展に組織的に取り組む方針から、忍者研究を始めることになりました。忍者には多くのイメージが存在しますが、学術的な研究は今までほとんど行われてこなかったことも研究をするきっかけとなりました。
-忍者の研究って、あまり前例が無かったのですね。
山田なので、私も忍者の知識はほぼ0からのスタートでした(笑)
-0からの研究には、苦労もあったのではないですか?
山田そうですね。まず何が困ったかというと、忍者に関する昔の本は、どこに典拠があるのか記載されていないことが多く......。というのも、そういった本は研究者の書いたものではなく、一般書であることがほとんどでした。ですから、研究は典拠を探す作業から始めていきました。すると時代を経る中で、伝言ゲームのようにどんどん記述内容が変わっていることが判明しました。
-伝言ゲームのような状態が続くと、史実と全く違う話が広まってしまう可能性もあるのでは......?
山田はい、ですから「現代人にイメージとして浸透している忍者」と「実在した忍者」の間ではかなりの違いがあります。
-忍者の研究を進める中で、一番驚いた「イメージ」と「史実」の違いを教えてください。
山田例えば「手裏剣は投げない」、とか。
-忍者って、手裏剣が代表的な武器のはずでは!?
山田驚きますよね(笑)忍者が手裏剣を投げたという記録は、存在しません。
-どこから来たイメージなのですか......?
山田元々は歌舞伎ですね。ですが、実際に忍者と手裏剣が結びつくのは昭和になってからです。昭和になって作られた忍者のイメージは、沢山あります。「くノ一」が活躍するっていうのも、嘘ですよ。
-え!? 「くノ一」も!?
山田いないです(笑)男性しかいません。女性の武士がいないのと同じですね。女性の忍者が活躍するのも昭和になってからです。男女平等の流れと言いますか、時代の流れに合わせて、忍者のイメージも作られていきました。これはこれで、面白いですよね。忍者の実像が分かっていなかったからこそ、クリエイターは「忍者ならばこういう事をしたかもしれない」と、想像を膨らませて色々作り上げることができたわけですから。
-想像の余地があったからこそ、イメージとしての忍者が多く作られていった......ということですね!
-ところで、忍者って最初はどのようにして生まれたのですか?
山田修験道(しゅげんどう)からの影響を強く受けています。もともとは中国の道教、山の中に入って仙人になる......不老長寿を求める宗教ですね。それが日本に入ってきて、修験道に影響していきました。
-大元を辿ると宗教にたどり着くんですね! どうやってそこから「忍び」に代わっていったのでしょうか?
山田「忍び」が最初に登場するのは14世紀初めの南北朝時代なのですが、この時代の動乱が関係しています。当時の戦いは穴を掘ったり、上から石を落としたり、いわゆるゲリラ戦のようなものでした。あとは山の中に隠れたり、同士討ちさせたりすることも。それ以前の時代は「一騎打ち」が主流でしたので、南北朝時代は戦い方が大きく変わっていったといえますね。この時に奇襲をかけたり、相手の状況を探ったりするために、「忍び」という存在が必要になってくる......こういう経緯で、「忍び」が生まれたといわれています。「山岳のどこを歩けばよいのか」などといった様々な知恵を、修験道から得たわけですね。
-奥深いですね......。戦が無ければ忍者は発展してこなかった、と。
山田そうですね、日本の歴史と大きく関係しています。上杉謙信や武田信玄といった武将に注目が行きがちですが、戦いの前には必ず偵察、情報収集をしないと戦えないわけです。ここで忍者が活躍していきました。しかし彼らは名前を残すことが無かったので、活躍の痕跡もあまり残っていません。
-名前が残っていないゆえに、研究の難易度が上がるということですね......。
-先生の研究で、「人に自慢したいこと」はありますか?
山田なんだろう、「誰も知らないけれど、自分だけ知っている」みたいな気持ちは......。
-優越感、のような?
山田そうですね(笑)これは忍者と繋がると思っています。忍者は情報を探る中で、きっと「自分だけしかこの情報を知らないぞ」という気持ちになっていたと思っています。情報を上手く使えば相手を混乱させて転覆させることもできますし。忍者を研究する中で、「情報」というものは重要だな、とつくづく痛感しました。
-忍者の仕事も、忍者研究も、どちらも情報収集が要だと。
山田はい。研究では古文書の調査だけでなく、人から話を聞くことも多くて。忍者を研究する中で大事だと感じたのは、人と人とのネットワークづくりですね。忍術書には、色々な人と結びつきを持っておくことが大事だと書かれているんです。研究でもこれを意識してみると、本当に様々な人から情報を頂くようになりました。結果、自分一人では出来ないことも、出来るようになるわけです。
先生のお話を伺う中で、更に忍者の歴史や文化に興味が湧いてきた学生広報員。
ここからは忍者そのものに対する疑問を、先生にお答えしてもらうことに。
詳細はこちら
今回のインタビューの様子をYouTubeで公開しております。
こちらからご覧ください。
研究者情報
人文学部 文化学科専攻 日本研究講座
教授 山田 雄司(Yamada,Yuji)
専門分野:日本古代・中世信仰史
現在の研究課題:
・忍者・忍術に関する研究
・伊勢・熊野信仰の研究 中世怪異に関する研究 北野社家日記の研究
【参考】
人文学部HP https://www.human.mie-u.ac.jp/
教員紹介ページ(山田 雄司) https://kyoin.mie-u.ac.jp/profile/2287.html